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『最後の博徒』 '85 東映京都

監督:山下耕作
脚本:村尾昭
原作:正延哲士
出演:松方弘樹・千葉真一・梅宮辰夫・萬屋錦之介・成田三樹夫・岡田奈々・江夏豊・泉谷しげる・清水健太郎 ・鶴田浩二・丹波哲郎


 戦後の広島を舞台にした抗争劇といえば、『仁義なき戦い』であろうが、この『最後の博徒』もほぼ同様の題材を扱った作品だ。主役の荒谷政之(松方弘樹)は実在するヤクザ・波谷守之をモデルとしている。そして、勿論、実話を基にしているのであるから『仁義なき戦い』でお馴染みのキャラクター達も登場する。『仁義なき戦い』とのキャスティングの対比などはかなり面白い。
 例えば、「悪魔のキューピー」こと若杉寛(『仁義なき戦い』では梅宮辰夫)は、なんと伝説の左腕・江夏豊だ。本作が映画初出演となるのだが、全くそうとは思えない程に堂々とした演技を見せていて、かなりの驚愕を覚える。左手一本で日本刀を振り下ろし、泉谷しげるの腕をいとも簡単に切り落とし、カメラに向かってニヤっとしてしまうところなどは、明らかに常人ではない。流石、優勝請負人。撃たれた時の苦悶の表情も必見。正にキューピー。
 そして、セクハラ不死鳥こと山守義雄(『仁義なき戦い』では金子信雄)は、こちらも狡猾な親分をやらせたら右に出るものはいない、成田三樹夫が演じている。エロが格段に減少してしまっているのは、実録路線以前の仁侠映画を多数監督している山下耕作の演出の所為か。しかし、その悪賢さや嫁(三島ゆり子 )との連携プレーなどは健在だ。
 更に、驚くべきは、『仁義なき戦い』での主人公・広能昌三(勿論、文太)を『仁義〜』では狂犬・大友を凶演していた千葉真一が演じているのだ。確かに、広能も結構な狂犬ではあるが、千葉ちゃん程の狂犬ではない。確実に、頭で考えるタイプの狂犬だ(千葉ちゃんは考えるという事を知らない)。これは、とんでもない昌三を観られるぞ、と期待したのだが、残念な事に、意外と静かな千葉ちゃんがそこにいた。つまり、昌三を狂わせるのではなく、千葉ちゃんを抑えてしまったのだ。出来る事なら逆の方法論を採用して欲しかった。

 題名の『最後の博徒』という言葉からも分かる様に、どこか集大成的な雰囲気が漂っている。しかも、それはカオスであった東映実録路線を一度リセットし、かつて鶴田浩二や高倉健が看板を背負っていた時代の仁侠映画というものに対して、レクイエムを捧げるかの様な意味での集大成である。実話を基にしているという点では、確かに実録なのだが、内容的にはあの頃の実録路線ではなく、勧善懲悪的、ヒーロー的要素の強い、仁侠映画なのだ。
 そして、実録路線の代表である『仁義なき戦い』と同じ題材を扱っているという事実が意味を持つ。そう、実録路線という突然変異的なお祭りに、従来の仁侠映画が解答を出したのだ。同じ題材を仁侠映画として描いたのだ。ここには、特筆すべき残虐な表現もない。ここでは、入り組んだ人間関係よりも、一人の仁侠にスポットが当てられる。義理がある。仁義がある。
 作品の後半、いつの間にか主人公が松方弘樹から鶴田浩二に代わってしまうのも、また監督の意図なのだろう。かつての仁侠映画というものに終止符を打つ為に、この作品は存在したのだ。

 ちなみに、この『最後の博徒』が鶴田浩二の遺作である。正に、最後の博徒。最後の仁侠映画だ。