| 『実録安藤組 襲撃篇』 '73 東映東京 監督:佐藤純弥 脚本:石松愛弘 原作:安藤昇 出演:安藤昇・丹波哲郎・梅宮辰夫・安岡力也・藤浩子・光川環世 昭和三十三年六月、渋谷の暴力団安藤組々員・千葉一弘が、東洋郵船社長・横井英樹を32口径ブローイングで銃撃し、横井氏は瀕死の重傷を負った。これが、安藤昇という男をスターダムに押し上げる事となる「横井英樹襲撃事件」である。ヤクザが堅気の人間に鉛をぶち込むという点において、とても希有な事件である。また、逃亡を続ける安藤昇と「暴力追放」を強く打ち出す国家権力との戦いは、壮絶極まるものであった。 この事件の詳細を劇的に暴いたのがこの作品であり、安藤組々長・安藤昇という人間を最もダイレクトに描いたものであろう。 全く同じ題材を描いた『安藤昇のわが逃亡とSEXの記録』という作品があるが、そちらの方はそのタイトルの通り逃亡生活の中のセックスに重きが置かれており、事件そのものの詳細にはあまり触れられていない(レビュー『安藤昇のわが逃亡とSEXの記録』参照)。しかし、この『実録安藤組 襲撃篇』は、逃亡生活よりも襲撃に至った経緯や安藤と警察の戦いを、正に実録という言葉が相応しい程にドキュメンタリータッチで描いている。そして、例によって、安藤昇先生は完全なるヒーローとしての役回りを担っているのだ。 安藤先生の執る行動の根底には、必ず「正義」というものがある。汚職を繰り返す警察を憎み、自分達の利益ばかりを追い求める政府を嘆く。そして、その道理の通らない社会に対する抗いとして、例の襲撃をしたのだ。最後に安藤先生は語る。「若者の為の社会はここにない。我々若者の為の社会を求める」と。 類いに漏れず安藤先生は格好良く描かれていて、それは「ヤクザ=悪」という一般常識を忘れさせてしまう程だ。組員を容易く殺し、それを正当化する国家権力の方が絶対的な悪に思えてしまう程に、安藤先生の世界ではパラダイムが逆転している。勿論、観る者も安藤先生のパラダイムを支持してしまうのではあるが。 『安藤昇のわが逃亡とSEXの記録』に比べると、そのインパクトは多少足りない気もしなではないこの作品なのだが、所謂実録路線のヤクザ映画としては、この『実録安藤組 襲撃篇』の方が、王道に近いものであろう。例によってナンバー2の位置で暗躍する梅宮辰夫の姿などは安心感を与える程に東映実録路線的だ。ただ、安岡力也の妙な若々しさが、多少気にならないでもないが、それは多分、『安藤昇のわが逃亡とSEXの記録』でその役を演じていた石橋蓮司と比べてしまったからであって、安岡力也の格好良さが石橋蓮司のそれ以上であるどころか、安藤先生以上であったという事が問題なのだろう。安藤先生もそこに気付いていたはずで、『安藤昇のわが逃亡とSEXの記録』(七十六年)では、自分より格好良い安岡ではなく、石橋蓮司をキャスティングしたに違いない。 |