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『鉄と鉛 STEEL & LEAD』 '97 東映

脚本・監督:きうちかずひろ
出演:渡瀬恒彦・成瀬正孝・岸本祐二・宮崎光倫・酒井彩名・白鳥靖代・竹中直人


 初期の『ビーバップ・ハイスクール』(勿論、漫画の方)は、確かに面白かった。異常なまでに楽観的な世界の中で、喧嘩が頻繁に起き、淡いラヴロマンスがあり、そして、何より熱い友情があった。不良漫画の美味しいところが全て詰まっていた。
 しかし、回を重ねて時が経つに連れ、何時の間にか物語は「終わらない夏休み」と化し、かつては縦横無尽にコマの中で動き回っていたトオルとヒロシは落ち着き払い、顔と台詞だけしか出てこなくなってしまう。キャラクター達の年齢は変わっていないのだが、何故だか彼等は大人になってしまったのだ。最早、彼等は不良ではない。時間を“永遠”に設定する事が不可能ではない漫画というメディアの中で時に生じる珍事である。『ビーバップ・ハイスクール』は終わりを知らない。終わらせる事が出来ない。
 『ビーバップ・ハイスクール』が変わってしまった瞬間は、その映画化の瞬間であろう。仲村トオル、清水宏次朗を主演に据えた第一作は原作を凌駕する程の傑作であった。ビーバップの世界観を漫画以上に面白く描いてしまったのである。それを観てしまったきうちかずひろは、漫画の中での表現に限界を感じたのではないだろうか。そして、Vシネマ『カルロス』で初メガホンを取る事となるきうちかずひろなのだが、そこでの彼は描きたい事を十分に描く事のできる映像というメディアを楽しんでいた。きうちが求めるものは一枚絵の中ではなく、映像の中にあった。観る者はそれを痛感する。

 『カルロス』も『JOKER』も『共犯者』もなかなか評価の高い作品であるが、やはりきうちかずひろ監督作品の中での最高傑作と言えば、この『鉄と鉛 STEEL & LEAD』であろう。兎に角、皆が格好良い。動きが格好良い。
 特にピックアップするべき点は主人公探偵の命を狙う(命を監視する)ヤクザ矢能(成瀬正孝)であろう。ピラニア軍団の一員として七十年代の東映を支えた続けた成瀬正孝も、現在五十一歳。もう決して若くはない。しかし、この作品では当時を彷佛させるかのような身のこなしを見せつける。現在でも、多くの作品に出演している成瀬正孝なのだが、これ程までのアクションを魅せる事はそう滅多にない。
 小林稔侍がいぶし銀の味を出し、志賀勝が借王になり、片桐竜次が肥え、川谷拓三亡き今、成瀬正孝の迫真の演技は、当時の東映ファンの心を鷲掴みにして放そうとしない。
 渡瀬恒彦も成瀬正孝同様に元気だ。喧嘩実力ナンバーワンとまで言われた本物の強さが健在であるという事をまざまざと見せつける。そして、ヤクザ(成瀬正孝)と探偵(渡瀬恒彦)との間に産まれる男の絆には涙を浮かべる外ない。
 また、おっさん二人の闘いの相手が、二代目トオルであり水戸黄門の助さんである岸本祐二だという事実も面白い。新旧の東映アクション映画が融合したかのような錯覚に陥ってしまう。とてつもない充足感を味わう事が出来た。

 やはり、きうちかずひろは映画を撮るべき人間だ。この『鉄と鉛 STEEL & LEAD』がそれを証明する。