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『鉄 平成侠客伝』 '99 GAGA

監督:宮坂武志
脚本:龍一朗・東龍志
出演:竹内力・港雄一・山口祥行・長谷綾子・本田博太郎


 産まれた時からテレビがあって、物心ついた時からテレビばっかり観て育ってきた僕にとっては、子供の頃のヒーローと言えばテレビに登場する芸能人やら漫画の主人公だったりするのだが、戦前戦後に幼少期を過ごした人間にとっては、兵隊さんや街のやんちゃなお兄さんがヒーローだったりするのであろう。僕の場合、ヒーローと自分を同一化すると言う事はあまりに非現実的であり、流石に「キン肉マンになりたい」だとか「翼くんになりたい」とは思いもしないが、子供の頃、身近にヒーローがいた老人達にとっては、その現実のヒーロー達こそが、人生の目標となり得るのだろう。

 竹内力演じる鉄は年老いたヤクザの組長・安田のヒーローそのものだった。子供の頃に闇市でライスカレーを奢ってくれた復員兵のお兄さん。そして、安田はそのお兄さんそのものである鉄に助けられ、極道として再び生きて行く決心をする。鉄は一体何者なのか。あの時の復員兵なのか…。そんな寓話的なテーマをヤクザ映画のフォーマットで仕立て上げた意欲作がこの『鉄 平成侠客伝』である。

 ヤクザ映画と言えば、義理・人情である。生きる死ぬの世界をセンチメンタリズムで彩るのがヤクザ映画の常だ。そこに寓話的なテーマを盛り込んでしまったら、それはそれはファンタジー色の強い、正にセンチメンタルな作品が出来上がるであろう。しかし、この作品は単にセンチメンタリズムに陥っていないところが素晴らしい。本田博太郎演じる敵役・坂崎の異常性、安田に惚れるソープ嬢の不細工さ(本当は可愛いのに、つけ歯を入れて不細工化している)、鉄のダイナマイト。はっきり言って反則技としか思えないそれらのギミックのおかげで、バランスが取れている。確かに、それらのギミックはどこか滑稽なものに見えるが、このどこまで本気なのか分からない不安定な感覚は、寓話的なテーマとヤクザ映画を繋げる重要な役割を担っているであろう。

 それにしても、竹内力のダイナマイトには度胆を抜かれた。もし竹内力の武器が日本刀であったら、この映画の楽しみは半減だ。竹内力がダイナマイトを持っているからこそ、「やっぱりねぇ」という感じのネタばらしも納得できると言うものだ。