| 『安藤昇のわが逃亡とSEXの記録』 '76 東映東京 監督:田中登 脚本:高田純 音楽:泉谷しげる 出演:安藤昇・小松方正・中島葵・ひろみ摩耶・石橋蓮司・小池朝雄・絵沢萌子・萩野まゆみ ここまで題名に忠実な映画も珍しい、というくらいに安藤昇の逃亡生活(一ヶ月強)とセックスだけが描かれている。こんなに解り易いタイトルで、こんなに解り易い内容の映画はそう滅多にお目に掛かれるものではない。 『仁義なき戦い』のヒットを受けて、それまでのヤクザ映画に風穴を空けるべく突如として現れた東映実録路線であるが、そのリアリズムとフィクション性の間に産まれるアンビバレンスに悩まされ続けていた。ハードに描かれる暴力には現実感を見い出す事は出来ないし、暴力をよりリアルに描いたら、エンターテインメント性は損なわれてしまう。娯楽としての実録路線であるが故に、完全な現実を映し出す事は出来なかったのだ。また、もちろん、その映画の題材となった事件をそのまま映像化する事など不可能であり、どこからどこまでが実話で、どこからどこまでがフィクションであるかの線引きを明確にする事も出来ないのである。結局、東映実録路線は迷走するだけ迷走し、最終的にはヤクザ映画を闇に葬り去る結果となってしまったのだ。 そんな東映実録路線は、『県警対組織暴力』のような名作も産み出したが、時にとんでもない作品を落として行った。特に安藤昇という元本物を扱った作品は、その内容の破天荒さ加減が尋常ではない。先に扱った暗黒社会ドキュメンタリー映画『やくざ残酷秘録 片腕切断 』(製作は安藤企画だが、配給は東映)も大概なものだが、ドキュメンタリーと言う事を考慮すれば、許せなくもないだろう。しかし、この『安藤昇のわが逃亡とSEXの記録』は完全に破綻している。否、破綻していると言うよりも暴走し過ぎている。 冒頭でも述べたが、ここでストーリーを説明するまでもなく、タイトル通りの内容である。殺人未遂容疑で指名手配中の安藤組組長安藤昇(もちろん、安藤先生自ら演じる)が逃亡生活の中で、何人もの女を抱くのだ。ただそれだけだ。とんでもない。 本当なら、このレビューで細かい描写の説明をしたくはないのだが、多分このレビューを読んで「この映画を観よう」などと思う奇特なお方はそういないと思うので、思いきって説明してしまおう。(もし、この映画を観たいのであれば、この後の文章は読まない方がいいでしょう。全部ネタバレです) まず、第一に凄いところ。この映画で安藤先生に抱かれる何人かの女達の全てが、異常に発汗しているという事である。これは、安藤先生のテクニックのなせる技なのか、それとも、安藤先生のセックスアピールの為の過剰な演出なのか、それは定かではないが、どちらにしろ、安藤先生が究極のセックスマシーンである事だけは痛烈に伝わってきた。女達が異常な程に求めてくる気持ちも分かる。あれだけ、汗をかかせてもらえれば、女冥利に尽きるというものだ。ついでに、あれだけ感じさせる事が出来るのなら、安藤先生も男冥利に尽きるってもんだ。 そして、次に凄いところ、否、恐ろしいところといった方が正しいであろうか。それは、安藤先生が時折見せる、本気の表情だ。安藤先生は基本的に甘いマスクのナイスガイである。菅原文太や梅宮辰夫の方が強面である。また喋り方もそれほどドスが効いたものではなく、竹内力のそれに比べれば全然大した事はない。しかし、しかしだ。若い衆をぶん殴るシーン、拳銃を構えるシーンでの安藤先生は、正に修羅の形相。本物だけが持つ、それは一種異様にも見える、恐ろしい表情を見せるのだ。娯楽の域を超えている。 更に、凄まじいのがラストシーン。逮捕のシーンである。逮捕間近である事を感じた安藤先生と若い衆は、浜辺を歩きながら、「何か」を悟る。それが何を意味するのかどうか、という事ははっきり言ってどうでもいいのだ。なぜなら、悟った二人は拳銃をぶっ放し、和服の女を犯しに走り出すのだから!そして、安藤先生、プールサイドでスタート。着衣のまま生理中の女を。もちろん、嫌がる女なのだが、安藤先生の手に掛かれば、態度も豹変するって言う話だ。思わず感じてしまう。安藤先生の帝王学「感じれば和姦」という考え方だ。とんでもない。 そして、当たり前のように警察がプールサイドになだれ込んでくる。「逮捕だ!」と叫ぶ警官にたじろぐ様子もなく、事を続ける安藤先生。嗚呼、素晴らしい。それでこそ男だ。しかし、国家権力もそう甘いものじゃなく、動く男女を切り離し、安藤先生、無防備な下半身のまま逮捕。長い逃亡生活がここで終わった。 ここで話は終わりかと思いきや、安藤先生の暴走はまだまだ止まらなかった。手錠を掛けられパトカーで運ばれる安藤先生の身柄なのだが、ニヤニヤしながら、何やらゴソゴソ手を動かしているではないか、安藤先生。そう、そうなのだ。下半身、シンボル、安藤先生自身を手錠を掛けられた手で激しく摩擦をしてるのだ。嗚呼、暴走し過ぎだ。それは、やり過ぎだ……。そして、汚れるフロントガラス。満足げな安藤先生。凄まじい。 そんな安藤先生の最後の一言。 「天皇陛下になった気分だよ」 もはや、言葉を失うしかない。この『安藤昇のわが逃亡とSEXの記録』は、東映実録路線が産み落とした究極の奇形。安藤昇には無条件の敬意を払うしかないのだ。 ネタを全てばらしてしまってごめんなさい。でも、こうでもしないと、この映画を言葉で表現する事は出来なかった。安藤先生万歳。 |