★細川ガラシャ夫人(上・下)   三浦綾子


戦国武将で誰が好き?と聞かれたら、わたしは迷わず明智光秀!と応えるくらい
明智光秀ファンです。
女たちが騒ぐような美形で、鉄砲の名手で、句を読み、茶をたしなむ教養人。
なのに、プレイボーイではなく生涯妻は一人だけ。非常に頭も切れて仕事もできるとくれば
わたしがほうっておく訳がない!<なんのこっちゃ
ただひとつ彼にとって、ついていなかったのは上司(織田信長)に恵まれなかったこと。
「三日天下」という意地悪なニックネームまでいただいてしまったこの悲劇のヒーローがわたしは大好きなのでありました。

のっけから、何なの?と言わないでくださいね。
実は、細川忠興のもとに嫁いだこの小説の主人公の玉子(ガラシャ)は明智光秀の娘なのです。
美男美女の夫婦から生まれたこの娘の玉子は、男も女も、一目見て、はっとするほどの美人だったと言われています。
しかも光秀の娘らしく賢くもあり、自己主張もし、とても魅力的な女性だったようです。
38歳という若さで死ぬわけですが、その死ぬ少し前にキリスト教の洗礼を受け、
ガラシャというクリスチャンネームをもらいます。
なので、ガラシャになるのはこの小説の最後の方です。
この小説はその主人公玉子の波乱に満ちた生涯を生々しいまでに現代に蘇らせています。
現代に生きるわたしたちと同じように悩み、苦しみ、そして救いを求めて信仰に走ったひとりの女性に同じ女として共感を覚えます。

では、あらすじを。。

上巻では、明智光秀を中心に物語が進行します。
これを読んで、わたしはますます光秀に傾倒しました。<単細胞です。
玉子の母、熈子(ひろこの字が出ない!!)と光秀の結婚のエピソードや
家来を思いやる心の広さや人の気持ちを察する繊細さを持ち合わせた光秀が
どんなに武人としても優れていたかをつづりながら、その光秀の娘として、
はっきりとものが言える女性として成長していく玉子を生き生きと描いています。
小さいころからかわいいがゆえに、周りからちやほやされて育ったため
かなりなうぬぼれやさんでもある玉子に光秀がガツンと説教する場面がありますが
そのころから、玉子は人間的にも魅力的に成長していきます。

やがて14歳になった玉子は不本意ながら、信長の命令を受けた父光秀に従って
やんちゃで気性の荒い細川忠興のもとに嫁いで行きます。
(もちろん、光秀自身もあいつ(忠興)にはもったいないと思ったようですが
上司信長の命令なので不本意ながら従っています)
忠興は、信長の息子と言われるほど勇敢で気性が荒かったようです。

嫁いだ玉子は、気高く賢く美しかったため忠興は惚れ込んでしまいますが
一方で自己主張の強い玉子に手を焼いてもいました。
玉子も忠興にとって自分はいったいどんな存在なのかと自問自答を繰り返し
夫婦でありながら玉子はどうしても忠興に完全に心を許すことができない状態がつづきます。

ある日、とてもすばらしい手作りのプレゼントを忠興から受け取ります。
それがきっかけで玉子の忠興に対する気持ちが一変します。
忠興がどんなに玉子のことを思っているかを初めて確認することができたのです。
それによって自分が今まで忠興に対して抱いてきた不信感を一挙に拭い去り
忠興に対して完全に心を許すことができるようになります。

そして下巻につながっていきますが、下巻の冒頭で本能寺の変が起こります。
もちろん信長を倒したのは、自分の父の光秀でした。
当然、夫も義父も光秀のもとに駆けつけるものだと思いますが
すでにそのころ秀吉が力を持ち始めていたため、
義父は頭を丸め、夫も髷を切り、信長への忠誠を示すことで細川家を守ろうとします。
とりあえず、中立の立場になって成り行きを見守るわけですね。

光秀は、信長を討ったあと孤立無援となり、短い天下は終わってしまい、
そして、玉子の母も姉も家来の者たちも城に火を放ち家と一緒に死んでしまいます。

玉子は父の光秀や家族を助けることなく見殺しにした忠興を許せません。
冷たい夫、義父、孤立無援で死んでいった光秀の哀れさを思い、気が狂いそうなほどの
孤独感にさいなまれます。

ところが、光秀の娘である玉子を殺せ、そうしなければ細川家も危ないと
家来に迫られている夫忠興が玉子の身は何があっても自分が守ると言い張り、
言い争いになっているところに出くわします。
一部始終を立ち聞きしていた玉子は、
忠興は何よりも玉子のことが一番大事なのだと考えていることを知るのでした。

あまりに強い忠興の気持ちに家来たちも折れて
玉子を人里はなれた山村に隠すことにします。

何の情報も入らない、忠興からの便りもない、子供たちとも別れ、
さびしい山奥の村で暮らす玉子は、身ごもっていた子供まで流産で亡くします。
このまま、いつ帰れるともわからない山村で言いようのない孤独感に押しつぶされそうになっていきます。

そんなとき玉子はキリスト教に出会います。
付き人の佳代(マリア)がすでに洗礼を受けていますが、その佳代の思いやりのある言葉と
信仰に玉子が興味を持つようになります。

隠れ家生活も2年が過ぎたころ、秀吉からお許しが出て
玉子は都に帰れる日がやってきます。

しかし、そこには小さいころに別れたためにすでに自分には
なつかなくなっている子供たちや玉子のいない間に忠興が娶った側室が
待っていたのです。
自分ひとりを愛していてくれていると思っていた忠興に別の女がいて
しかも身ごもっている事実に愕然とします。

せっかく待ちに待った機会が訪れたというのに
山奥で生活していたときよりももっと大きな孤独感が玉子を苦しめます。

そして、そんな玉子を慰めてくれたのが信仰でした。
忠興の長期出兵中にこっそり屋敷を抜け出して宣教師のもとに向かいます。
信仰の疑問を宣教師にぶつける玉子に宣教師も彼女の信仰の深さ、知識の深さに驚かされます。
玉子は納得した上で、すぐに洗礼をしてほしいと宣教師に頼むのですが、
身元を明かさないのでは洗礼はできないと断られます。
涙ながらに訴える玉子でしたが、やがて城を抜け出しているのがわかり、
家来に連れ戻されてしまうのでした。

しかし、信仰心はますます強くなり、自らポルトガル語やラテン語を勉強し
侍女や家来にキリスト教を広めて行きました。
ついには、玉子以外の供の者はみんな洗礼を受けるようになりました。

玉子自身もなんとか洗礼を受けたいと願い続けていましたが
ついに秀吉がキリスト教禁止令を出したことを知り、早急に洗礼を受ける決意をします。
そして、宣教師から手ほどきを受けてきた佳代が城内で玉子に洗礼の儀式を行います。
このときから、玉子はガラシャ(グレーシア:神の恵みの意)いう洗礼名で呼ばれるようになります。

その後、戦場から帰還した忠興は不在中に玉子がキリスト教の洗礼を受けたことを知り
激怒します。信仰をすてなければ、侍女の鼻や耳をそぐと脅し本当にやってのけました。
しかし、玉子は信仰を捨てません。
やがて、ポルトガルとの商売には宣教師が必要とわかった秀吉は簡単に禁止令をといてしまいます。

しばらくは、落ち着いていたように見えた世の中も秀吉が死ぬことによって
また天下の取り合いが始まります。
徳川家康に対抗している石田三成は、細川忠興を自分の側につかせることで
優位に立てると考え、妻の玉子を武力を行使しても人質に取る作戦に出ます。

しかし、何があっても人質になっては、夫忠興や徳川家に人質になっている
息子忠利のためにならないとわかっている玉子は信仰の助けもあり喜んで死を選びます。

そのことが世間にあっという間に広がって石田勢は追い詰められ
奮い立った徳川勢の勝利という形で幕を閉じることになるのです。

忠興は、玉子の死のおかげで徳川家康に信頼され
徳川家に3代にわたって腹心の家来として仕えたそうです。


と、いうわけで長い話はあらすじにしても長くなってしまいますね。
久々に、泣きすぎて途中で読むのを中断しなければならなくなった小説に出会いました。
二人で過ごす最後の夜に忠興に抱かれながら時世の句
「散りぬべき時知りてこそ世の中の花も花なれ人も人なれ」 と読む玉子に涙し、
死ぬ場面で涙し、死んでからの締めくくりの部分を読んで涙し。。。もうぼろぼろでした。(^.^;)

細川ガラシャを知っている人も、知らなかった人も、まだお読みになっていなければ
ぜひぜひ、読んでいただきたい小説です。

こんなに生き生きと細川ガラシャを現代によみがえらせて下さった
今は亡き作者の三浦綾子さんに合掌。


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2004年5月11日記