snail5.gif (1130 バイト)  神聖な生き物5

アワビ(鮑)貝の魔よけ
 
  私が住んでいる山口県小郡町に、数年前から気になる1軒の家がありました。その家というのは、国道9号線に面しており、軒下に大きな「アワビ」貝が吊り下げてあるのです。海辺の家ならまだ理解できるのですが、町中であるために奇異に感じていたのです。「何かのまじない」かと関心を抱き、機会をみて訪問してみたいと思っていました。

  貝をまじないにする風習は、山口県内をはじめ、全国各地にみられます。例えば、鎮守の森に棲む蜷貝・シイボルトコギセルは、長命・健康・安全などの守護とされます(山口県)。殻のトゲが漢字の「水」に似ているスイジガイという海産の貝は、火魔除けのまじないとして、竃の脇に吊るされました(和歌山県)。また、殻に多くのトゲをもつホネガイは、植物のタラノキやヒイラギと同じように、悪魔除けとして戸口に掲げられます(三重県)。このように意外にあるものです。

  ここで紹介するアワビ(鮑)貝は、子供の流行病(はやりやまい)やヘビ・イタチを鶏舎から追い払うまじない、牛や馬などの家畜から病魔を追い払うまじない、家庭円満の守護とされたものです。光を反射する人工的な鏡とは異なり、見る方向から怪しく光るアワビの殻や殻表面にいくつか並ぶ呼吸孔(「目」と呼ばれるが)に、昔の人は神聖さや呪力性を感じたのでしょう。そして、病魔や災いを除去する望みを託したのでしょう。 山口県内でも最近まで、長門市・油谷町・豊北町など日本海側の港町で、この風習が残っていました。

  こうした「アワビに霊力を認める思想は、まず海人の中から起こり、そこで定着し、やがて人の移動とともに内陸へ広がったと考えられる」(伊藤 彰、1981、「防長海辺の民俗」、東洋図書出版より)とする見解があります。

  はじめに述べた小郡町のアワビ貝ですが、後日訪問したのですが、あいにく住人は留守でした。近所の人に尋ねると、前年まで健在だったお年寄りが亡くなられたそうです。親族は大阪に出ておられ、今は空き家になっているとのことでした。今思えば、アワビ貝の呪力性を信じるお年寄りが、病魔から遠ざかるためのまじないだったかも知れません。今となっては、聞く術はありません。

クロアワビ(ミミガイ科)

スイジガイ(ソデボラ科)

 

軒下に吊り下げられたアワビ貝(小郡町)

殻内面を表にしたアワビ貝