エッセイ 15

  巻き貝が点滅のエネルギー源
 
  
  「ほっ、ほっ、ほたる来い」 5月下旬になると、家路に向かう車窓から、淡い黄緑色の光の舞
 いが見られるようになります。私は毎年楽しみにしている、ゲンジボタルの観察できる場所を2
 か所もっています。今年も6月に入り、乱舞が勢いを増してきました。先日、ある不思議な現象
 に気が付きました。自宅から遠い観察場所の1つ、川上を夕方の8時過ぎに通りかかりました。
 すると見事な乱舞が始まっていました。帰宅後、近くの観察場所である釜ヶ淵に、家族で見に行
 こうと思いながら、釜ヶ淵にさしかかりました。ところが、予想に反して点滅はほとんど見られな
 いのです。数日後、その日は川上の点滅は見られないのに、何と釜ヶ淵は見事な乱舞となって
 いたのです。人にとって同じような気象状況でも、ホタルにとっては違いが敏感に識別でき、活
 動に影響するものなのでしょうか。

  ホタルの観察ガイドを開くと、最も多く飛び回るのは、小雨か曇りの日で、しかも風がなく蒸し
 暑い夜。雨や風の強い日、気温の低い日、月の明るい日はあまり飛ばないそうです。私の好み
 の観察場所は、距離にしておよそ30km離れているために、ローカルな気象条件が異なってい
 るのでしょう。

  幼いころ、夏休みの夜、縁側で飛び交うホタルを採り、麦わらで編んだ虫かご(当時はどの家
 でも畑に麦を作付けしていた)に入れ、不思議な光の点滅にひかれたものでした。今思えば、8
 月の水田地帯ということからすると、ゲンジボタルよりも一回り小ぶりの、ヘイケボタルだったの
 でしょう。

  ホタルの語源は、発光する状態を「火垂る(ひたる)」と表現し、「ホタル」に転じた(貝原益軒
 『大和本草』説)とも、「星が垂れる」(小野蘭山『本草記聞』説)ともあるそうです。この小さな夏
 の生き物も、成虫は水だけで約2週間生きることが観察されています。ゲンジボタルもヘイケボ
 タルも、その点滅のエネルギー源は、幼虫時期に食べるカワニナやモノアラガイなどの巻き貝
 ということになります。

  ※ 写真「ゲンジボタルの乱舞」は、山口県教育研修所教育情報データベース「ゲンジボタル」
   (藤永禎史制作)より転載させていただきました。

ゲンジボタルの幼虫

幼虫が食べる巻き貝・カワニナ

ゲンジボタルの成虫

ゲンジボタルの乱舞