エッセイ 19

 えっ、1個体80円? 前の川にいますよ
 

  先日、金魚のえさを求めて、ホームセンターに足を運びました。ペットコーナーにいくつも並んだ熱帯
 魚の水槽をのぞきました。色とりどりの魚や珍しい水草が、観賞用蛍光灯に照らされて、鮮やかな緑色
 を発していました。小川や池で手足を汚すことなく、何でも手に入るようになりました。驚いたのは端っこ
 の水槽です。「水槽の掃除屋さん、イシマキガイ」と掲示され、中で12匹が動いていました。

   イシマキガイClithon retropictus は、汽水性の巻き貝。本州の中部以南から沖縄諸島、中国南部ま
 で生息しています。成長するにつれて川をさかのぼる、おもしろい習性があります。数年前に、いったい
 どのくらいのスピードで上流に向かうのか調査したことがあります。すると、19時間で約20m移動して
 いました。山口県内の河口でも、春先から夏場、石の表面に白い胡麻粒状の卵嚢が見られます。大き
 な個体では、殻頂部が折れたように浸食されています。

  熱帯魚の飼育ブームで、水槽の清掃用にといろいろな巻き貝が導入されています。よく知られている
 のがサカマキガイPhysa acuta とインドヒラマキガイIndoplanorbis exustus 。前種はヨーロッパ、後種は
 インド・東南アジアが原産です。私の家にも数年前に知人から数個体をいただいたインドヒラマキガイが
 繁殖し、メダカと一緒に水槽にいます。サカマキガイの方は、野外で繁殖し各地の池や用水路に普通に
 見られます。

  さてさて、イシマキガイですが、おもしろいと思ったのは、ホームセンター前を流れる川に、おびただし
 い数が生息していることを知っていたからです。店員の方に「商品として、どこから入ってくるのか」訪ね
 てみました。関西や東京だそうです。流通に乗れば、目の前にいる小動物でも1匹80円にもなるのです
 ね。人の手によって、分布を拡大している動植物が増え続けています。
 

流水が海に注ぐ河口汽水域

堰の壁に密集するイシマキガイ

殻頂部が浸食を受けたイシマキガイ

石表面に見られる胡麻粒状の卵嚢