snail5.gif (1130 バイト)神聖な生き物6

百日祭と子安貝
 
  貝にまつわるまじないについて調べると結構あるもので、数年前にふとしたことから「子安貝(こやすがい)」というものに出くわしました。

  私の実家は山口県の山陰にありますが、百日祭(ももかまつり)のために子どもを伴い、氏神様である八幡宮に参拝しました。その時のこと、宮司さんから祝詞を受けていた際、その祝詞の言葉の中に「子安貝」という言葉が現れたのです。早速、宮司さんにその祝詞がいつ頃から伝わっているものなのか、百日祭の時はどこの神社でも同じ祝詞が述べられているものなのか、子安貝がどんな意味をもつものなのかなど尋ねたのです。多くのことを教えていただき、またこのことをきっかけに「子安貝」について調べることができたので、その一部を紹介します。

  宮司さんによれば「それぞれの祭によって祝詞は異なり、百日祭では安産と安全を祈願し、そのお礼の祭とし、言葉は代々伝わるもの」で、「お尋ねがあったので、境内の楠等古木を調べたが資料は見当たらなかった」ということでした。ちなみに、祝詞は次のようなものです。
− 何某 妻 伊去(イ)にし年月懐妊(ミゴモ)りて有るが故に平(タヒラ)けく 産ましめ給はむ事を 朝(アシタ)には手を折数え 夕(ユウベ)には思いを傾(カタムケ)て 櫻花(サクラバナ)の香(ニホ)はむ春を下待(シタマツ)事の如く 家人(イエビト)皆子安の木を仰待(アホギマ)ち恋(コ)ひ 子安貝伏(ウ)して折しり 験(シルシ)ありて 今年の何月何日に障る事なく 産出(ウマイデ)しめ給い −
  結果としては、詳細は不明のままですが、祝詞の出典を突き詰めれば、いつ頃、誰により作成されたかが判明し、何か別の新しい発見があるかもしれません。

  『日本社会民俗辞典』(日本民俗学協会編、1952、誠文堂新光社)の「子安貝」の項を引くと、子安貝は古くから信仰され、今日でも広く各地に祭られていることが記されています。一部を引用すると、「出産育児のために信仰される神の一。神道では木花開耶姫命などと説明しているが、仏教と早くから習合し、子安地蔵あるいは子安観音として信仰される形が多い。ほとんど女ざかりの婦人達によって信仰される。安産子育ての祈願も、一方では所の氏神・ウブスナガミの神徳に帰してきた地方も広く存在した」とあります。
   このように、女性たちにより信仰された子授け、子育ての神とされてきています。この点にも関係がありそうです。

  平安時代の『竹取物語』に「燕の子安貝」という表現があります。かぐや姫が中納言石上磨足に所望したものです。ここでいう「子安貝」はタカラガイという海産の貝で、その中でもハチジョウダカラという比較的大きなものをさしているそうです。タカラガイ(寶貝)の仲間は、安産の守護とする俗信から、子安貝の名前があるとも言われています。

  いずれにしても、貝の字がこのタカラガイ(寶貝)の象形文字に由来し、さらに貨幣(貝貨)に用いられたので「寶」をはじめ財寶資財に関係のある文字には「貝」が扁や旁になっているなど、貝が私たちの生活に古くから深く関わっていることを示しています。また、それは俗信ではあっても「子安貝」として人間の風俗・習慣に奥深く入り込んできたことも事実なのです。

上野山八幡宮

ハナマルユキタカラガイ

  ○この内容は「百日祭と子安貝」(増野和幸、1995,『温故知新』)より引用しました。また、伊勢神宮 矢野憲一氏、上野山八幡宮 白神博実氏、山口県護国神社 津田 勉氏より資料等についてご助言をいただきました。