snail5.gif (1130 バイト)    世界の南限、絶滅への挑戦
        小瀬川のカワシンジュガイ

  
  カワシンジュガイ(川真珠貝) Margaritifera margaritifera (ヨーロッパでこの貝から真
 珠が採集されたのでこの名前がある)は、世界的にはヨーロッパ、アジア、アメリカ、カ
 ナダなどの限られた場所に生息し、新生代第四紀、今から25,000年前の氷河の先
 端地域に生息していました。その後、氷河が後退していくとき、その場所に取り残され
 温度の変化や食物の変化など、きびしい環境条件に耐えて、生き残ってきた北方系の
 淡水産二枚貝です。
   このカワシンジュガイのように北方系の貝が、暖かい地域である山口県、広島県の県
 境を流れる小瀬川(おぜがわ)に生息していたことは、地理的分布上非常に珍しいこと
 で、日本の南限であるだけでなく、世界の南限でもあるのです。
  小瀬川では昭和15〜16年(1940〜
 41)ごろまでは、相当数生息していたと
 のことです。ところが、昭和20年
 (1945)前後を境に急激に減少し、個
 体数が極度に少なくなりました。
     それでも、蛇喰盤(釜ケ原)、後原、奥
 谷尻付近には、かなり生息していたよう
 です。
   以後、数度にわたる綿密な調査によっ
 ても生貝は確認されず、現在に至ってい
 ます。今日では、ほぼ全滅したと考えら
 れています。
   絶滅の原因として、金井照夫さんは次
 の二点を指摘しています(1973年)。
 @再三の台風の来襲により、川底に土
 砂がたい積し、貝が生き埋めになった。
  さらに上流にダムが建設され、水量が
 減少し、水温の上昇が生じた。

  A戦後、農薬の使用がが急増し、直接、貝に影響を与えたとともに、繁殖に関わる
    淡水魚が減少した。

   その他、河川改修や生活廃水などの影響も大きいと考えられました。
    西中国山地のカワシンジュガイも、風前の灯火の状況ですが、広島県芸北町では
 天然記念物に指定し、地元に生息する20数個体をもとに増殖実験が行われていま
 す。また、広島県大竹市の小瀬川は、カワシンジュガイの生息地として県の天然記念
  物に指定されています。
                                        ※上図は、波部(カワシンジュガイの分布、1984)を改変

増殖実験が始まったころの様子

現在の美和町立北門小学校

小瀬川の流れる釜ケ原の風景

  山口県美和町釜ケ原にある
 北門小学校(ほくもん:篠田俊
 治校長、児童数13名)の校区
 には「カワシンジュガイを守る
 会」があります。守る会が応援
 して、11年前から子どもたちに
 よる増殖実験の試みが始まり
 ました。その母貝は、遠く東北
 地方・岩手県から取り寄せてい
 るそうです。
  その増殖の試みがどのように
 なっているのか、先日(2000
 年6月)小学校を訪れました。
   数年前まで校舎横にあった
 実験池から、現在は学校下を
 流れる渓流付近に池が設置さ
 れていました。その中には100
 個体ほどのカワシンジュガイが
 飼育されていました。子どもた
 ちは当番を決めて、毎日水温を
 調べ、貝の様子を記録している
 そうです。
  毎年、いくつかの貝が幼生
 (グロキジュウム)を放出し、この
 幼生がアマゴ(コイ科)のエラに
 寄生するのが確認できるそうで
 す。
 

  教育委員会の助言で、幼生が寄生したアマゴは、小瀬川に放流しているそうです。し
  かし、放流後の幼生の成長や稚貝の確認は、できていないとのことでした。
   地域の強い期待を担って、11年近くも実験・観察を継続してきた北門小学校。過疎
 化のために、来年3月で閉校されることになっています。かつて、北半球における南限
 (北緯34度17分)とされてきたカワシンジュガイと、他地域からの移入個体による増殖
 実験。いろいろと議論のあるところですが、自然環境の変化は、わたしたち人間と自然
 との関わりの中で発生したものなのです。今日、多くの動植物が地球上から姿を消そ
 うとしているのです。

飼育地を見守る篠田校長先生

渓流近くに設置された飼育ハウス

流水中に立つシンジュガイ

東北地方から取り寄せた母貝

落葉や砂が堆積する取水口

水量変動の大きい小瀬川

 ※ このページをまとめるにあたり、美和町立北門小学校校長 篠田俊治先生、広島県 高等学校理科部会
   内藤順一先生には、多くの助言をいただき感謝いたします。また、次の文献を参考にしました。記して感
   謝いたします。
  ・美和町立北門小学校紹介パンフレット「特色ある学校づくり−カワシンジュガイの増殖−
  ・金井照夫(1973)小瀬川のカワシンジュガイ、山口県の自然3(10)
  ・内藤順一(1989)広島県(南限付近)におけるカワシンジュガイの繁殖生態とその教材化、広島生物
     第11号、広島県高等学校教育研究会理科部生物部
  ・波部忠重(1984)氷期遺存のカワシンジュガイ、動物と自然、14(11).