鼻アレルギーの非薬物治療―手技と最近の治験

勝田耳鼻咽喉科医院 志井田 守

はじめに

ジアテルミーは電波の領域を用いる治療で、外科的と内科的の応用があり、電気外科はラジオ、超短波治療はテレビ、マイクロ波照射にはレーダー(電子レンジにも使われる)の周波数を用いる。内科的応用のうち超短波は両耳に当てた絶縁導子で、マイクロ波は照射アンテナで、電波を体内に送り治療する。内科的応用は身体に電流が流れない点で、電流とJoule熱を利用する外科的応用とは全く異なっている。ジアテルミーの最も良い適応は、鼻出血、鼻アレルギー、習慣性アンギーナおよび滲出性中耳炎の4疾患である。高周波電気治療研究会が故河嶋光の提唱で始まってから22年になるが、今回私は鼻アレルギーに対する応用について述べる。

1)鼻アレルギーに対する電気外科

外科的応用としては電気凝固が汎用される。機器には火花間隙式と真空管式およびソリッドステート式のものがある。凝固には火花間隙式の電流波形が最適とされるので、私はこの方式の凝固器栗山製スーパーミゼット)を使用している。下甲介にはモノポーラ法を行うが、電流の経路が心臓を避けるよう円筒形の対極を右手に持たせ、1/3径の鈍先カテラン針とほぼ同じ太さの針状電極を用いている。

実用に先立ち、下甲介に見立てた肉片を頬に貼り付けて実験を行った。肉片に針状電極を25mm刺入して弱い電流(最強出力が6のダイアル目盛で2.5)を45秒間通電すると、頬はかなり熱く感ずる。しかし肉片を割いて針の周囲を調べても肉眼的には変化を認めない。これはごく弱い凝固であるから、誤解を避けるために粘膜下通電または加熱処理と呼ぶことにした。針先を浅く刺すか表面に当てた通電では1・2秒で針の周囲が凝固し白濁する。これを表面凝固と呼ぶことにした。

実際の場合も同様で、私はストップウオッチとスイッチを看護婦に押させて、ダイアル目盛と通電の秒数を記録し申告させる。粘膜下通電は、電極を引いて抜くまでに、途中で1〜3回15〜10秒通電を追加する。電極の深さが浅くなったらダイアル目盛を一段下げるが、通電量が増えると針を引く時の抵抗感はやや強くなる。この点、只木の報告は逆で双極針では凝固が進むと抵抗感が減るという。粘膜下通電が済んだら表面凝固を行う。



凝固は4%キシロカイン綿(12mm×60mm大5枚)で下甲介を10分包んだ表面麻酔の後行う。電流が強すぎると45秒経たぬうちに、たとえば通電20秒で、刺入部の粘膜表面の針の周囲が白変してくる。その場合は残りの25秒はダイアル目盛を一段たとえば2.5を2.0に下げて通電する。私は25mm刺入時の粘膜下通電は45秒を目安にして電流を調節している。刺入部で血液が電極に着くと電流が分散するので通電量の総計(ダイアル目盛×秒数)は多くなる。通電の飽和量は刺入部の放電として現れ、疼痛を伴う。放電のまえに刺入部は白変し、または付着した血液が加熱されて固化し始める。粘膜の白変部は実験と異なり、血流により数分後にはやや赤味を帯びて来る。

表面凝固は即効性でくしゃみ発作を頓挫させる。粘膜下組織の加熱処理は鼻閉と鼻漏を改善し、その効果は術後次第に明らかになる。私は術後3週で治癒過程が終了する程度を基準にしている。鼻アレルギーの3主徴を軽快させるためには、粘膜下通電と表面凝固が車の両輪の如き意義を持ち、所見と症状に応じて両者を按配する。くしゃみ発作のひどい例では表面凝固を重視するが、術後数日間下甲介(とくに前面)にゼリー状の被膜を生ずる例も多い。 この被膜がとれると白色浮腫状の通年性アレルギーの下甲介は正常に近い所見に戻る。

2)ジアテルミー凝固の遠隔成績と最近の治験

私は1987年に、10年間の550症例について遠隔成績のアンケート調査を行った。図(右)は左側凝固後7年を経過した中年の女性の返信で、術後症状はくしゃみ・鼻水・鼻閉のいずれもナシと二重丸をつけている。図(左) は 別の女性の返信で、片側を凝固しただけで術後は本当に良くなり10年間も良かったという。

患者自身による術後症状の評価を円グラフで示す。症状0が治癒で5は軽快、10が不変である。0と1が各7例、2が15例、3が20例で、0から3までの合計は49例であった。全体は100例 (片側70、両側30)なので、その半数において症状が著しく軽快したようである。

図(右)に術後年数別にまとめた症状の経過を示す。症状0治癒から軽快5までの合計例数は経過とおもに減少の傾向であるが、症状3の著明軽快例は9年経過群で最多である。この点いろいろな解釈できようが、ジアテルミー凝固では再発例が少ないと思う。

最近4年間の下甲介凝固の月別分布を下図に示す 。年間の総数は100〜150例、平成7年と昨年(10年)の杉花粉の時期が突出している 。

次の図は平成8年の月別分布で、杉の春、稲科の夏、ブタ草の秋に山がある。

平成10年3月の凝固手術21例(両側12片側9)の一覧を表 に示す。No.に*印をつけた6例は凝固希望で来院の紹介患者で、妊婦や授乳中が4例である。通院日数と翌年再来の項目を表の右に示したが、発病15年後で両側を凝固した2例においても、通院日数は4日と5日である。 各例とも術後は殆ど通院しなくて済んでいる。翌年再来したのは21例中の1例でヒスタグロビンを3回注射した。

平成11年3月の凝固13例の一覧を表に示す。No.807とNo.808は片道5時間の遠隔地から凝固希望で来院した重症の母娘で、術後は連続して服薬する必要が無くなった。 私の場合、この方法を始めて25年経つが、凝固希望の患者が次第に増加しており、成績の優秀性を物語るものと考えている。


最近4年間のジアテルミー凝固の手術例を図に示す。扁桃を含む総数は年間200〜300で、この半数の100〜150例が鼻アレルギーの下甲介に対する手術である。ほかに鼻茸は20〜30、鼻出血が約40ある。

下甲介に対して、私が使用している電極はカテラン針状電極と先端が5mm露出した針電極(図のaとb)である。単極針電極に比べると双極針電極(d)を下甲介に刺入するのは体格のよい人でなければ、かなり困難であろう。カテラン針状電極ならば、注射しなくても粘膜の薄い症例に適用できる。火事における初期消火と同じく、粘膜の病的変化が少ない鼻アレルギーの早期に凝固を適用することが、好成績の一因になると思う。この点で、私は下甲介用の電極として使い慣れたカテラン針に似た電極をお勧めする。

考察および総括

鼻アレルギーのジアテルミー凝固では、下甲介前端の粘膜表面の凝固と粘膜下組織の加熱処理が必要であるが、レーザー手術より優れた点は、一回の凝固、それも片側の凝固であっても持続的な効果のみられる点である。その理由として、私はレーザーが主として粘膜表面を処理するのに対し、ジアテルミーでは反射回路の起点である下甲介の前端部とともに 反射回路の終点となる粘膜下組織の加熱処理も行う点にあると考える。鼻アレルギーでは反射回路の起点となる粘膜表面の過敏性を減らすだけでは効果が一時的である。回路の終点となる甲介の粘膜下組織の反応を低下させることが重要なのである。この点でジアテルミー手術に特有の粘膜下通電による加熱処置が重要な意義を持つと考えられる。只木も同じ見解を強調している。加熱処理では煙もでないし白濁もしない。粘膜焼灼とは違う点を誤解してはならない。

片側凝固の効果が反対側にも及ぶ点については、反射(求心・遠心)回路という路線の乗降客(刺激伝達量)が減れば、複々線のもう一方の路線も運転本数が減らされるというように譬えられはしまいか。

鼻アレルギーの非薬物治療には、昔から行われた観血手術のほかに、非観血手術として@高周波電気凝固Aレーザー手術B化学剤手術などがある。

ジアテルミーによる下甲介の凝固は、双極針法が1948年Morrison、1965年佐伯と道下により報告された。単一針法は1961年上田、1972年橋本ら、1974年奥沢らの報告がある。その際下甲介前端の粘膜表面は危機察知の重要なセンサーとして極力保全された。 発 想を転換してこの部位を凝固すれば、実際にくしゃみ発作は頓挫し軽快する。粘膜下組織の凝固が鼻閉を軽快させることは既に周知の点である。

この方法により、 私の場合、陳旧例の多かった初期10年間の著明軽快例は50%であった。 最近は高度な陳旧が減り早期適応例が増えたので著効例は80%を超える。

おわりに

私は開業して35年経つが、ジアテルミー治療による事故例は皆無である。鼻・副鼻腔疾患に高周波凝固を適応すれば、容易に非観血手術が行える。諸先生がゾンデ双極やカテラン針電極を活用して、気軽に日帰り手術に取り組んでいただけたら幸いである。