高周波電気治療研究会 志井田 守
おわりに
[文献]
○[写真]超短波治療中の大人と小児○[写真]超短波治療−導子の当て方
○混合性難聴の聴力図○超短波治療とTympanogramの経過
○幼児の治療状況[写真]
○マイクロ波の照射子と超短波の治療導子
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はじめに抗生剤が開発されてから、とかく薬剤治療万能になりがちな風潮である。耳鼻咽喉科で
は薬剤がほとんど無効の疾患も少なくないが、理学療法は現在軽視されており、医学教育の
面でも物理療法ははなはだ手薄な部門になっている。同好の士によって耳鼻咽喉科高周波
電気治療研究会が発足して20年になるが、今回私は経験に基づいて内科的ジアテルミーに
ついてなるべく平易に解説し、記憶に残る2症例を記述して諸賢の御理解の一助に資したい
と思う。
高周波電気治療は、周波数が10KHz 以上になると身体に通電しても刺激作用がなくなり
温熱作用を生ずる点から1892年 d'Arsonval (仏)により始められた。現在は高周波電気
治療を総称する用語としてdiathermy ジアテルミーが用いられる。電気外科が外科的ジア
テルミー、超短波治療とマイクロ波照射が内科的ジアテルミーと呼ばれる。
電磁波のうち通信に応用される範囲の高周波を電波というが、この高周波電流を身体に
通電する方法により電気外科では切開と凝固を行う。これに対し電波自体の作用に基づき、
電流を通電しない治療が内科的ジアテルミーである。
高周波の熱作用という観点からみると、外科的ジアテルミーは、身体が電気的に主とし
て抵抗として作用する、導電加熱(Joule 熱)いわば電熱器的な応用である。他方内科的ジ
アテルミーは、身体が抵抗と容量として働く、誘電加熱いわば電子レンジ的な応用である。
そして内科的ジアテルミーのうち、超短波の透熱は温和であるが深達性であり、マイクロ
波の加熱は強力であるが浅在性な点が特長である。
ジアテルミーは英語でdiathermy −ダイアは横切る、サームは熱を意味し、透熱療法と
訳されて、コンサイス英和辞典に載っている。最近の保険診療点数表では、内科的ジアテル
ミーは整形外科の消炎鎮痛処置とされ、短波(深在性)とマイクロ波(浅在性)による悪
性腫瘍に対する加熱治療−ハイパーサーミア(hyperthermy)が電磁波温熱療法として扱わ
れている。ちなみに赤外線照射は皮膚科光線療法に入っている。
超短波治療は1926年にSchliephake(独) により創始されて、1930年代に最も盛んに応用
された。当時の医師の座右の書であった「内科診療の実際」西川義方著は超短波治療につ
いて詳細な解説を載せている。1940年以降の戦争の時代は、兵器に資材が転用され医師の
徴兵もあって臨床の研究は中断した。戦後は抗生剤を主とするる薬剤治療の時代になって、
物理療法のジアテルミーは保険診療の面で冷遇された。
しかし耳鼻咽喉科の疾患たとえば習慣性アンギーナや小児の反復再発性中耳炎あるいは
滲出性中耳炎などは、薬剤治療で根治し難い特長を持つ。私は勤務医時代には術後性副鼻
腔嚢腫の対症治療などに超短波を応用したが、開業後は手術を希望しない慢性扁桃炎や難治
性の上記疾患に超短波治療を積極的に適応して、現在まで40年ちかい経験を積んだ。
マイクロ波については後述するが、15年まえに耳鼻科専用の機器が作られ、私はそれ以降
マイクロ波照射も繁用している。
耳鼻科治療では一対の導子で両側の耳介を挟みゴムバンドかマジツクテ−プ付きの女
性の帯締めで固定する。耳介と導子の間にガーゼでくるんだフエルトを入れると、温熱感は
導子を耳介に密着させた時よりも弱くなるが深達作用が強くなる。導子は10×12cm大の
金網をゴムまたはフエルトとビロードで蔽って絶縁したものである。ラジオ放送をよく聞こ
えるようにするのと同様に、導子を着けたらダイアルを動かして治療回路を同調させるが、
同じ治療部位の場合ば微調整で済む。最も良く同調すれば導子やリード線に近付けた検波
管の発光が一段と強くなる。それによって同調の状況を知ることが出来る。検波管は小さ
いネオン管であるが10〜20ワットの普通の蛍光管で代用できる。
1.絶縁された導子を用いるので安全である。
2.両耳に当てた導子が蓄電器−コンデンサーの役目をして、そこに電気エネルギーの作用
する電界が出来る。
3.この高周波蓄電器電界に治療部位が入るのであるが、電界内にヘアピンがあると電力線
が金属に集中して熱くなる。
4.治療対象となる扁桃・耳管・中耳は同じ電界内に入るので一度に治療出来る。この点は
耳鼻咽喉科として超短波治療に最も有利な条件である。
5.超短波の特長は穏和な透熱と作用の深達性である。毛細血管と小動脈の拡張作用が強力
で、治療後には扁桃周囲が発赤する。それゆえ病巣扁桃の誘発試験に応用される。
6.抗生剤の無かった時代に、致命的な顔面や頭部の化膿性疾患に使用され、著明な抗菌・
抗炎症作用が実証された。
私は長い期間に多数の著効例を経験したが、なかでも最高の一例について述べる。
症例:K.T.38才 男性 初診:'81.8.3
主訴:高度な右耳閉塞感
現症:4カ月来通院、患者は駅員で駅前に耳鼻科があったので一日2回治療を受けたこ
とも多い。その間に鼓膜穿刺4回と鼓膜切開を2回うけたが難治であった。転勤のため当
院に転医した。
所見:聴力像は2KHz dip を特長とするが、耳鳴はない。通気度は悪く通気音は湿性であ
る。
診断:右滲出性中耳炎、混合性難聴
治療:鼻咽腔への1%塩化亜鉛溶液の塗布と通気のほかに、超短波治療を行った。
経過:4回通院後に2KHz dip が消失、以後も加療したが順調に軽快し再発しなかった。
考察:このような症例は、感音系が過敏で耳管機能障害の影響を強く受けるため起った
混合性難聴と考えられるが、超短波は同一電界内に含まれる中耳・内耳および耳管に対し
て均しく効果的に作用するので、この症例に限らず混合性難聴には著効がある。
幼小児の滲出性中耳炎は内科的ジアテルミーの最もよい適応であるが、2才以下では超
短波とマイクロ波の両者とも実施が困難である。しかし聞き分けのよい場合には2才未満
でも適応できる。
症例:K.S.2才 男児 初診:'92.1.4
主訴:難聴の傾向
現症:一年前に急性中耳炎で両側の鼓膜切開をうけたことがある。今回は風邪後1カ月
来鼻漏が多く、ピアノや掃除機の音を嫌がるようになったという。
所見:初診時のTympanogramは右耳C型、左耳B型であった。
診断:両側滲出性中耳炎、アデノイド
経過:早速週2回通院させて超短波治療を行った。マイクロ波照射も所見に応じて時た
ま併用した。通院6回目からPolitzer氏法で通気出来るようになり、Valsalva氏法も上手
になって、15回治療後にはTympanogramはA型(左耳Ad型)になって、掃除機の音も
嫌がらなくなった。以後軽快の状態が続きアデノイド顔貌も普通に戻った。第4図は左から 初診時、15回、28回、 35回治療後のTympanogram
考察:私の経験では、小児の習慣性アンギーナが治癒する超短波治療の回数は20〜25回
である。そこで私は内科的ジアテルミーの1クールは20〜25回を目安としている。アデノ
イドも高度肥大でなければ軽快する。
この例の両親は教員で患児の物分かりもよく治療が容易であったが、掃除機やピアノの
音を嫌がったのは、伝音難聴における骨導延長を物語る興味深い症状で母親ならではの鋭
い観察である。
軍事用に開発されたマイクロ波は戦後の1947年から治療に応用され始めた。目下わが国
では電子レンジ用と同じ周波数−2450MHz 波長12.5cmの電波を用いている。その特長は僅
かな電力で強い加熱作用が得られる点である。15年前に耳鼻科専用のアンテナ(照射子)が
作られたので、過剰な出力による火傷防止と眼に対する照射を避けるよう注意すれば幼小
児にも適用できる(朝日電子製マイクロサニーMS-500型)。マイクロ波は同軸ケーブルで
シャーレ型の反射鏡が着いたアンテナに導波され、耳介に密着させたアンテナから組織内
に送波される。
組織内に送波されたマイクロ波の加熱作用は限局かつ浅在性なので、Waldayer氏扁桃輪
の治療には能力不足であるが、頬部嚢腫、唾液腺炎、リンパ節炎、外耳炎や鼓膜炎、難治
性の術後性耳漏、鼓室貯留液の吸収促進および中耳炎後遺症の防止さらに耳鳴や突発性難
聴の治療にも効果的である。マイクロ波の作用機序としては局所の血行改善が重視されて
いる。
滲出性中耳炎では鼓室病変に対してマイクロ波照射が有効であるが、原因となる鼻咽腔
の病変は超短波治療の適応である。両者を併用すれば滲出性中耳炎は治癒し易くなり再発
防止に役立つ。超短波治療の耳管機能改善効果は著しく、ジアテルミーで治療すれば悲惨
な中耳の癒着所見をほとんど完全に防止できる。
悪性腫瘍の電磁波温熱治療では、腫瘍が浅ければマイクロ波で、深ければ短波で加熱す
る。超短波の加熱作用が短波より弱い故であるが、超短波は独自の生物学的作用として抗
炎症作用が強い。波長が6メートルの超短波の作用が最強とされるが、現在はテレビ電波
との競合を避けて、周波数 30 MHz 波長10メートルの電波を用いている。ダイアルの手動
によらずに治療部位と超短波電界を自動的に同調させる装置のついた治療器も作られてい
る(伊藤超短波製イトーレータK21)。
内科的ジアテルミーとして、超短波治療は狭い範囲に中耳、内耳、耳管および鼻咽腔が
並ぶ耳鼻咽喉科疾患が最良の適応となる。また専用アンテナを用いればマイクロ波の限局
かつ浅在性の加熱作用は外耳と中・内耳の疾患が好適応である。私はジアテルミーがたと
えば薬剤治療が好ましくない妊婦の急性扁桃炎に、あるいは薬剤のほとんど無効な疾患た
とえば習慣性アンギーナや滲出性中耳炎などに適用されて、耳鼻咽喉科臨床が一層活性化
することを期待したい。
[文献]
1)本庶正一:耳鼻臨,37(6):464-469,1944.
2)志井田守:日本医事新報,No.2729:135,1976.
3)川本浩康:耳鼻臨,69(8):973-980,1976.
4)志井田守:高電研会誌,2¥3¥5¥9¥12号,1980
−1990.
5)形浦昭克:耳喉,53:781−787,1981.
6)寺山邦昭:都耳鼻会報,63:36,1986.
7)志井田守:日本医事新報,No.3560:139,1992.
8)志井田守:日耳鼻,96:1773,1993.