耳鼻咽喉科領域のday surgery−minimally invasive
    treatmentの検討−

    耳鼻臨床 88:8;973〜991(平成7年)

    7.扁桃・鼻・副鼻腔疾患に対するジアテルミーの利用とその意義

    目次

     はじめに
     電気外科と電極
     day surgeryに対する応用
     内科的ジアテルミー
     おわりに

    〇電気外科と電極 (図解)○私の用いるソンデ双極○手持対極と針状電極〇アレルギー性鼻炎の電気凝固

    ○アレルギー性鼻炎の凝固:術前、術後の鼻鏡所見[写真]○舌癌の電気凝固 [写真]○扁桃の凝固手術 [写真]

    ○掌蹠膿疱症の手足軽快の状況{写真]○扁桃凝固により治癒した掌蹠膿疱症[写真]

    〇各種凝固用電極とその特長(表)○アレルギー性鼻炎凝固例のアンケート調査

    ○アンギーナ重積症の扁桃凝固(その1)○アンギーナ重積症の扁桃凝固(その2)

    文献

    〇1944:本庶;慢性中耳「カタル」の超短波療法
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    はじめに

      1895年Zeynekは、火花ギヤツプ方式で発振させた高周波を用いて、電極を着けて通電す

    るジアテルミーを創始した。この治療は急性炎症には禁忌で、火傷の危険もあり、後に外

    科的な応用に限定された。ジアテルミーは透熱の意であるが、現在は、高周波電気治療全

    般にわたる広義な用語として使用される。

     ジアテルミーには電気外科と内科的治療がある。電気外科には、凝固性能が優秀な点で、

    現在も、火花ギヤツプ方式またはこの方式を組み込んだ機器が用いられる。内科的ジアテ

    ルミーには超短波とマイクロ波を用いている。

     電磁波は、電波→赤外線→可視光線→紫外線と波長が短くなる。ジアテルミーは、電波

    の領域を用いる治療で、電気外科がラジオで波長1000m 、超短波はテレビで10m 、マイク

    ロ波はレーダーで波長10cmである。レーザーは、CO210 μ、YAG1μ(記憶の便を考慮した

    概略値)で遠および近赤外線の波長である。

    電気外科と電極

      電気外科は、電流が抵抗により生ずるJoule 熱を応用する。切開と凝固があり、電気メス

    の切開には強い出力を要するが、凝固は切開の1/10の電力で済み、装置も廉価なので利用

    し易い。以前はアースとして対極に鉛板を用いたが、鉛板は凸凹になり易く、凸の一部に

    電流が集まると火傷の心配もあった。手持ち対極−表面が平滑な円筒形の対極を右手に持

    たせる方法は簡便で、この心配を解消し心理的にも患者に受け入れられ易い。私は、鼻甲

    介の凝固は針状電極と手持ち対極を用いるモノポーラー法で行っている。

     バイポーラー法では、脳外科用の双極摂子のように、対極と電極を同形にして、ともに

    活用する。しかし鼻出血の凝固では、先端が鋭いと鼻粘膜を傷つけ、副損傷による出血を

    来し易い。私は、外科ゾンデ状の先端が鈍な形の双極を作った。手技の巧拙は、電極の選

    択によっても左右されるが、出血していなければ、単極も双極も、電流が先端に集中して

    凝固出来る。出血の最中は、先端に血液が付いて電流が分散するので、うまく凝固出来な

    い。単極では、先端が僅かに露出した針状電極を、血液を通じて粘膜に浅く刺入して通電

    すれば凝固できる。双極では、二つの極の間に絶縁材を埋め込んでおくと、ここに血液が

    入らないので、出血中の凝固が容易に出来る。これをゾンデ双極−極間絶縁型と名付けた。

    ゾンデ双極は凝固用の電極として大変重宝で、電極の先に凝血塊や組織片が詰まらないので、

    凝固の途中で電極を掃除する手間も省ける。電極を移動させながら通電を繰り返すだけで

    済むので、一ケ所数秒として、10数ケ所の凝固は 2〜3 分で出来る。

    Day Surgery に対する応用

      以上の工夫により、扁桃や鼻・副鼻腔疾患のDay Surgery に,私は電気外科を繁用して

    いる。簡単に非観血的手術が出来ることが最大の利点である。以下私の経験から2・3の

    点を述べる。

      口蓋扁桃を、一回の凝固で形態的に消滅させようとする考えは良くない。僅かな凝固で

    目覚ましい機能改善を期待できるので、経過により凝固を反復する態度が合理的である。

    術後の出血に煩わされる心配もなくなる。

      アデノイドは、長い膝状のゾンデ状単極を用いて、経鼻腔的に短い秒数で凝固する。

      偽膜性アデノイド炎やアンギーナで薬剤が無効の場合またはアンギーナ重積症には、炎

    症扁桃に対する凝固手術が即効的である。

      掌蹠膿疱症は、扁桃凝固によって著しく軽快し、劇的な治癒例も少なからず経験される。

      口蓋垂と後口蓋弓を弱電流で充分凝固した後切除すると、出血しないので、「いびき」

    に対する軟口蓋成形術も外来で施行出来る。術後の呼吸困難を避けるため、両側を同時に

    施行せず、片側が治癒した後に対側を行う。

      鼻アレルギーでは、昔の方法は下甲介の前端部粘膜を危機察知の重要なセンサーと考え

    て、極力保全した。しかし、この部位の凝固は何等の支障を来さず、くしゃみ発作の抑圧

    に速効的である。私は、前端部粘膜の数ケ所を白濁凝固するが、これを表面凝固と呼ぶ。

    電極針を粘膜に深く刺入した時は、強い電流で凝固せず、弱い電流を長く通電する。私は

    25mm刺入の際は45秒通電を規準にしているが、これを粘膜下通電と呼ぶ。粘膜下通電は

    鼻閉と鼻漏に有効であるが、効果は少し遅れて現れる。そして鼻アレルギーの電気外科

    的治療では、下甲介の表面凝固と粘膜下通電が車の両輪として働く。粘膜の肥厚が高度で

    鼻閉が強い例には、露出した針の部分が短い電極を、他にも何ケ所か浅く刺入して、短い

    秒数の通電で強く凝固する。手術効果を永続きさせるためには、術後暫時の血性鼻漏や甲

    介前端の痂皮付着などが、3週間後に治癒する程度の通電と凝固が適当のようである。

      鼻腔一杯に充満する鼻茸は、前方から凝固し鉗除して止血する操作を繰り返して、鼻咽

    腔にまで及ぶ。浅い部分はゾンデ双極、深部は膝状の長いゾンデ単極または針状電極を用

    いる。出血しないからタンポンを入れる必要はないし、手術終了時には鼻腔が開通して、

    大変喜ばれる。しかし、翌日から軟らかいチーズのような痂皮で鼻腔は再び閉塞する。そ

    こで、術後の通院で毎回痂皮を鉗除する。その際出血したり、生き残りそうな鼻茸の残部

    があれば凝固しておく。高度な鼻茸も、この処置を 5〜6 回繰り返せば、劇的とも言える

    ほど見事に治癒する。再発傾向は観血手術より少ない。早目に凝固して鼻茸を成長させな

    いようにすれば、治癒状態が永続きする。

      レーザーによる蒸散はシヤープカツトで、周囲の二次的な熱変性は少ないという。電気

    外科では、Joule 熱が周縁波及性なので、舌癌の凝固などに応用した場合は、ハイパーサ

    ーミア的な効果を期待できると思われる。

      ハイパーサーミアは、大規模なジアテルミー装置を用いる悪性腫瘍の電磁波温熱治療で、

    わが国では大いに研究され、保険診療にも採用されて、学会も出来ている。

    内科的ジアテルミー

    最後に内科的ジアテルミーについて概説する。マイクロ波は、反射鏡のついた耳鼻科専

    用のアンテナを密着させて照射する。電子レンジと同じく1秒間に24億 5千万回の振動で

    分子を効率的に誘電加熱する。作用は浅在性であるが、頬部嚢腫・術後耳漏・鼓膜炎・外

    耳道炎・突発難聴などに良効があり、中耳炎では貯留液の吸収が著しく促進される。

      超短波は両耳に絶縁導子を着けて、導子間に生ずる蓄電器電界で治療する。とくに波長

    6mのものに生物学的作用が顕著であるが、テレビ電波との競合を避けて1秒間3千万回

    程度の周波数を用いている。深達性の温和な透熱の効果が、アデノイドや習慣性アンギー

    ナなど、鼻咽腔にまで良く効いて、耳管の通気性は著しく改善される。週 2〜3 回の治療

    で25回を1クールとする。

      私の経験では、まだオムツのとれない2才以下の幼児でも、マイクロ波と超短波を併用

    して治療できる例が少なくない。幼小児にとって、内科的ジアテルミーは大きな福音で、

    滲出性中耳炎は軽快し易くなり、中耳アテレクターゼが起こらない。超短波治療について

    は戦前既に多くの研究があるが、1944年本庶はcontrolled studyを行って滲出性中耳炎に

    対する治療効果を報告している。

    おわりに

    少子化と医療事故に対する社会風潮から、開業医家による扁桃・鼻・副鼻腔疾患の手術

    実施件数は激減している。この点、ジアテルミーを応用した day surgery の普遍化によ

    る耳鼻咽喉科臨床の活性化を期待したい。

    付記]

    diathermy は、Nagelschmidtによる命名で、ギリシヤ語の接頭語dia-透過と温熱を現すラ

    テン語 thermの造語。語感が良いのでZeynekのthermopenetration よりも一般化した。

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