耳鼻科診療におけるジアテルミーの利用その意義
勝田耳鼻科 志井田 守
はじめに
1891年フランスの生理学者d’Arsonvalが高周波の無害的発熱作用を報告してから、その医学的応用が始まった。1895年ZeynekはThermopenetrationと名付けて金属電極を用いる内科的高周波治療を始めた。Diathermieはこの治療に対するNagelschmidtによる命名で、Diaはthroughをthermieはheating(透熱療法)を意味する造語である。語感が良いのでジアテルミーが選好されて、現在は高周波治療を総称する用語となっている。
ジアテルミーに用いる高周波は、電気外科はラジオ、超短波はテレビ、マイクロ波は電子レンジの周波数で、超短波とマイクロ波治療が内科的ジアテルミーである。マイクロ波は通信ではレーダーに用いる。すなわちジアテルミーは通信に用いる範囲の電磁波(電波)を応用する治療である。その波長は電気外科が1000m、超短波は10m、マイクロ波 は波長が10cmと短くなって赤外線に近付く。3者とも内部的な温熱産生による治療であるが、電気外科は金属電極で通電、超短波は絶縁電極で透射、マイクロ波はアンテナで照射する。俗に表現すれば電気外科は電熱器的な導電加熱、マイクロ波は電子レンジ的な誘電加熱である。超短波はその中間で温熱が深く透過して生物学的に作用する。
超短波治療
超短波治療は1929年Schiephakeにより完成された。Schiephake電極は一対のガラスキャップがついた金属電極で、皮膚と電極はキャップ内の空気で絶縁される。四角の金網をゴムあるいはフェルトで包みビロードで被って絶縁したPad電極も用いられる。パッド電極では皮膚との間にガーゼで包んだフェルトを入れて電極を皮膚に密着させない。その理由は、深部まで透過する超短波の温熱は、皮膚と電極の間隙が20mmのとき表面と中心の温度差が最も小さくなって、円滑に治療できるからである。
これら一対の絶縁電極の間は蓄電器になって、電気エネルギーの働く電界が出来る。片方の電極を小さくするとそこに電力線が集中し、弱い出力で病巣扁桃の誘発テスト、強い出力では凝固ができる。電極が治療する部位と同じ大きさのとき電力線は均等に分布する。両極間に金属があると電力線はそこに集中するので、ヘアピンは取らせて治療する。電界はリード線の間にもでき、蛍光灯を近づけると明るく点灯する。
第1図は超短波治療によるアデノイド顔貌の改善である。聡明な母親で子供が掃除機やピアノの低音を嫌がる骨導聴力の延長に気付いたという。患児も賢くてValsalva法も1才10ヶ月で習得できた。両側耳管中耳カタルで左耳は滲出性の傾向でTympanogramはC型あった。第2図に示したが15回治療後から軽快してTympanogramはAd型になった。


伝音系と感音系が同じ電界内にあり両者を同時に治療できる点で、混合性難聴は超短波治療の好適応である。私が経験した最高の著効例として第3図に38才男、鉄道員の初診時の聴力像を示す。駅前に耳鼻科があったので一日2回治療したこともあったというが、4ヶ月間の通院でも難治であった耳閉塞感と混合難聴(2000Hzdip)が、転勤で私の医院へ来院され超短波を適用する僅か4回の治療で軽快治癒した。
超短波の生物学的作用5項目を第1表に示す。@たとえば透射後は軟口蓋の血管が拡張して咽頭は発赤する。診察まえに超短波治療をしたかどうか聞かないと病的な発赤と間違えるほどである。ABについては結核菌の殺菌、ジフテリー菌の抗毒素作用など多くの報告があり抗生剤のなかった当時は化膿性疾患に対する唯一の効果的な治療手段であった。CDでは電界には脳幹部が入るので、たとえば更年期の自律神経失調には著効がある。

表は超短波治療のまとめである。治療対象が深部にあるが狭い範囲に並び同じ電界に入るので、各診療科のなかで超短波治療の効率が最も大きいのが耳鼻科であり、薬剤耐性菌の増加が目立つ現在、その殺菌・抗炎症作用も評価できる。適応の禁忌は少ないが、血管が拡張し新陳代謝が亢進するので、悪性腫瘍、出血性疾患は禁忌である。また電界が影響するのでペースメカーを入れた人、ほかに温度感覚の麻痺した人は禁忌である。
追加として螺旋電界方式といって可撓性の金属導線をゴムなどで被覆絶縁したコイルを頚部に巻いて喉頭を治療する方法もある。また金属コイルを用いた螺旋電界渦巻き型電極(ミノード)を用いる治療法もある。
マイクロ波照射
マイクロ波は光線のように照射する。加熱作用が強力で、血行の少ない眼・睾丸、それに12.5cmの波長に共鳴し易いので、脳への照射は禁忌である。円筒形の照射子を用いる際は、眼に金網のゴーグルを着け仰臥して照射する。受話器型の耳鼻科専用の照射子を耳介に密着させて使えば、座位でゴーグルなしにて治療できる。
滲出性中耳炎の治療では、マイクロ波は滲出液の吸収を促進し、超短波は耳管の通気度を改善するので、両者を併用すると効果的である。週2・3回治療し25回を1kurとする。
内科的ジアテルミーのまとめ
超短波は温和な深部への透熱と生物学的作用および安全性が特長であり、マイクロ波は深く届かないが効率の良い加熱作用が特長である。超短波の適応は複合性疾患で混合性難聴、滲出性中耳炎、習慣性アンギーナ、鼻咽腔炎など、マイクロ波は限局性疾患で術後性頬部嚢腫、顎関節症、外耳炎などが適応である。
電気外科
Radiosurgery HFsurgery などいろいろな用語があるが、凝固と焼灼は全く違う点を記憶すべきで、焼灼は外部からの加熱で悪臭と煙が出るThermocautery=Paqurlin’s cautryであるが、Coagulation凝固は内部からの発熱で煙もでないし臭いもしない。
極く僅かな隙間をおいた二つの金属棒に高電圧をかけると火花放電が起き、高周波を発振させることが出来る。この火花間隙(スパークギャップ)方式の電流波形は断続する減衰波である。真空管の基本波形は連続して減衰しない正弦波である。断続波は凝固に優れており連続波は切開に適している。
アメリカ製の装置として初期のサージトロン真空管式であったが、現在はトランジスタのソリッドステート式になった。3.8MHzの短波を用いるが、凝固には低い1.7MHzを使うように改善された。応用する高周波としては、漏れ電流が増えるので2MHz以下が良いという文献もあり、一般には500KHz程度の中波が多く用いられる。
鼻アレルギー
耳鼻科では切開よりも凝固が多いので、私はスパークギャップ式を用いてきた。1985年に下甲介前端の凝固がくしゃみ発作に著効性であることを報告したが、針電極を用い対極として円筒形の手持ち電極を右手に握らせる。下甲介に見立てた肉片を頬に貼り付けて実験できるが、前端部粘膜は表面を白濁凝固し、粘膜下は針電極を25mm刺入して弱い通電による加熱に留める。
第4図は術前と術後の鼻鏡所見で、1ヶ月前に凝固した左下甲介は正常な所見に戻っている。実験と違い血行があるので凝固による甲介前端の白濁は間もなく赤くなる。
ジアテルミーはレーザーと違って効果が術後長く続く。たとえばアンケートの返信では、7年前に手術した44才女性は術後すっかりよくなって爽やかに過ごしている。9年まえに電気凝固を受けた32才女性は本当によくなったと感謝している。術後の状況は、治癒例から症状が術前3分の1に軽快した例まで合計して、著効例は49%であった。
鼻アレルギーのまとめとして下甲介前端の粘膜表面は白濁凝固、粘膜下は弱電流による加熱処理で、表面凝固 はくしゃみを抑え、粘膜下ジアテルミー が鼻みずと鼻閉を治す。両者はいわば車の両輪である。

ゾンデ双極
鼻血の止血と鼻茸の手術には出血の最中でも凝固できる電極が望ましい。私は両極の間に絶縁材を入れたゾンデ双極−ゾンデのバイポーラを作って重用している。電極は可撓性なので舌根扁桃の凝固にも使える。
上顎洞性後鼻孔ポリープの切除では、 鼻腔に充満した鼻茸を凝固して縮小させ シュリンゲで切除して止血する。多発性鼻茸も注射せずキシロカイン綿の表面麻酔で手術できる。麻酔と凝固を繰り返して深部まで処理して終了する。出血の最中でも凝固による止血ができれること、これが味噌である。
扁桃の凝固手術(高周波陰窩摘除術)
1931年にアメリカのBalmerはdiathermocryptectomy( dia:透、 thermo:熱、 crypt:陰窩、ectomy:摘除)と名付けて扁桃凝固について解説している。扁桃摘出と同様な術後状態にするには5回ほど凝固を繰り返すのが良いという。
扁桃の凝固手術については高電研会誌6号(1984)17号(1996)、20号(1998)、25号(2003)に報告したので、ここでは参考とすべき留意事項について述べる。
1) 扁桃は痛覚に乏しく口蓋弓を凝固しないですむ場合は局麻注射が不要である。4%・8%キシロカインの表面麻酔により無痛で手術できる。
2) 露出部5mmで先端が鋭い鎌型双極針あるいは鈍先のゾンデ双極を用いるバイポーラ法がよい。
3) 1・2秒の通電で白濁凝固する強さの電流を用い、深く凝固したい時は通電する秒数を長くする。
4) 術後に壊死する部分が深くなり過ぎぬよう、電極は一般に刺入しないで表面に当てるだけがよい。
5) とくに埋没性の小扁桃では凝固後の壊死範囲が被膜外に及ばぬよう通電に注意する。
6) 膿汁や膿栓が多く溜まる上扁桃窩あるいは深く長い複雑な陰窩を開放する時は、口蓋弓を弱電流で凝固してから切除すれば、出血させずに必要な範囲を拡大し開放できる。
扁桃凝固手術に関する経験的事項
一般に観血的手術と違って凝固による扁桃切除術では、術後に陰窩の閉塞が起こらないのが大きな利点である。しかし構造が複雑な一部の陰窩では、凝固により縮小し浅くなったにも拘わらず陰窩の開口が小さくて、少量になったが膿汁や膿栓が溜まり口臭や疼痛を訴える例がある。また掌蹠膿胞症は凝固により軽快するのが普通であるが、完治しない例がある。慢性疲労症候群、習慣性アンギーナの凝固では凝固後、ある程度の期間、ほぼ半年くらい経過してから軽快する例がある。
これらの例ではBalmerのいうように凝固を繰り返して漸次軽快させ治癒させることができる。頑固な例では必要な凝固が5回以上たとえば8・9回にもなることがある。
ともかく扁桃凝固手術は処置なみの気軽さで施行できるにもかかわらず、その効果は観血手術と比べて遜色ない。否むしろ症例によっては観血手術を凌駕する。たとえば習慣性アンギーナではBalmerのいうDiathermocryptectomyでなくCryptotomyというべき軽い凝固で治癒する例も少なくない。大人の扁桃摘出では一部の例で術後に鼻咽腔炎様の過敏状態を来たす弱点がある。この点では機能の改善した扁桃が残るので凝固手術のほうが優れている。私は大人の習慣性アンギーナには凝固手術を第一選択にすべきであると思う。
幼少児の単純性扁桃肥大では片側の扁桃を凝固するだけで睡眠・摂食時の物理的障害は治癒する。また内科的ジアテルミーの超短波治療で軽快しないアデノドと難治性の滲出性中耳炎に対しても片側の口蓋扁桃凝固が著効性である。第5図は右側扁桃の凝固と超短波治療で軽快して40日後には別人のようになった5才アデノイドの例である。スライド46
治癒が促進されるので難治性のアンギーナに対して炎症の最中に凝固する場合があり、これを炎症扁桃凝固と呼んでいる。耳鼻科医は額帯鏡などを使用し両手が使えるので、扁桃の圧迫テストを励行することが大切で、多量の膿栓が出る埋没性の小扁桃も珍しくはない。圧迫テストにより単なる視診では気付かぬ多くの知見が得られる。
第3表
扁桃凝固手術の利点を第3表に示す。大人になってから扁桃を摘出すると、術後に鼻咽腔の過敏な状態が続いて困る例があり機能が改善した扁桃が残るのが最大の利点である。第 表は扁桃凝固の適応である。習慣性アンギーナのあるIGA腎症に対し、アンギーナの都度、扁桃を凝固して腎症状の悪化を軽減させた例もある。


第4表に扁桃凝固術を推奨する理由を示す。1)陰窩摘除でなく切除すなわち程度の軽い凝固でも著明な効果がある。2)僅かな例外はあるが観血手術が不要になる。3)自信を持ってWardayer氏咽頭輪の治療が出来て耳鼻内科の辱めを受けないで済む。
その他
いびきに対する軟口蓋形成術は左右に分けて逓時的に行う。切除する部分を予め弱電流で充分凝固しておくと出血がほとんど無くて済む。
高電研会誌11号(1998)に高周波凝固で延命した高齢の舌癌について報告したが、右4回 左2回凝固して治癒状態となり初診から5年後 95才8ヶ月天寿、睡眠時に大往生された。
悪性腫瘍の電磁波温熱療法はハイパーサーミアといい強力な装置を用いる。わが国で研究が盛んで、保険点数が設定されている。
耳鼻咽喉科におけるジアテルミーの最適応は、薬剤治療の効果が少ない4疾患すなわち鼻出血、アレルギー性鼻炎、習慣性アンギーナ、滲出性中耳炎である。
欧米では理学療法士には女性が多く、妊娠への影響が少ないので超短波がマイクロ波よりも選好され、パルス式治療装置が米国、ドイツ、イタリア、スペインなど各国で作られている。
おわりに
電磁波障害について家電製品によるものも心配されているが、これは電界による障害でなく主に磁場による障害である。マイクロ波による白内障、遠赤外線による低温やけど等、明らかな電磁波障害は表示する如くである。超短波は安全で電磁波障害の危険はない。
