'98 World Grand Prix 〜Round 14 アルゼンチン〜

 日本から始まったコンチネンタルサーカスも、南アメリカのアルゼンチンで今シーズンの幕を閉じようとしています。
 コースは、スリッピーな路面を持つブエノスアイレス・サーキットです。

・GP125 〜尽くされた人事〜
 坂田はどんな思いでグリッドについたのだろう。本当なら、既に手にしたタイトルが、燃料違反という思いがけない裁定でその手から逃げていったのだ。ともすればモチベーションが保てない状況である。それでも、彼は何事もなかったかのように、序盤から飛ばしていく。ホンダ勢を向こうに回し、唯一のアプリリアとしてトップを争う。その光景は、今シーズン何度も見られたシーンそのものだった。
 中盤、メランドリとジャンサンティが逃げると、坂田は集団のペースを落とし、3位集団もろとも眞子を抑える作戦に出る。が、しかし、眞子を最後まで抑えることはできなかった。東に続き、坂田のしかけた罠から抜け出した眞子は、ここから鬼神のごとき走りを見せる。わずかでもあるチャンピオンの可能性。それを現実のものとするためには、一つでも坂田より前に行くしかなかった。5秒先を行くトップを追いかけ、追い着き、遂にはトップでフィニッシュし、自らの可能性を最大限に広げることに成功したのだ。そして一方の坂田も、非力なアプリリアで5位集団の先頭をキープ、自らの可能性を広げる最大限の努力を見せた。この結果、坂田 229pts 、眞子 217 pts で、その差 12pts。ただし、FIM の裁定如何では、坂田のポイントは -13pts となるのだ。その結果が出るのは1週間後。
 こうして二人のライダーは、でき得る限りの人事を尽くした。あとは、FIM のみぞ知る・・・。
 (その後、坂田のオーストラリアでのポイントが認められ、坂田のチャンピオンが確定した)

・GP250 〜砂煙の向こう側〜
 誰もが目を疑った。誰もが驚いた。ゼッケン 31 がコーナーへ進入したその内側に、同じカラーの黒いマシンが突っ込んできた。その直後、原田哲也の2度目のタイトルはグラベルの土煙へと消えた。1年間培ってきた“友情”とともに。

 原田とカピロッシは微妙な立場にいた。ポイントはわずか4ポイントでカピロッシが上だった。このレースで先にチェッカーを受けたものがチャンピオン。そう言っても過言ではなかった。しかし、二人は同じチームで同じアプリリアワークスを駆るライダーでもある。ライバル心を剥き出しにするわけでもなく、フェアな争いを見せてくれそうな雰囲気があった。
 レースは中盤から今シーズン見なれたアプリリア勢の独走で進んでいく。序盤逃げていた原田に追い付いたカピロッシは、その原田を抜いて引き離しにかかる。しかし、思うように離れない。同じチームの二人が随所でフェアな見ごたえをのあるレースを見せる。少なくともここまでは・・・。
 終盤、そこにロッシも追い付く。タイトル争いと関係なく“二人の邪魔はしたくない”と語っていたロッシは、一歩退いて二人の戦況を見守っていた。そこに原田、カピロッシが立て続けにミス。ファイナルラップでロッシは計らずもトップに出てしまった。自らのミスでロッシの先行を許したカピロッシは、この直後、バックストレッチエンドのコーナー立ちあがりで原田にも先行を許す。千載一隅のチャンスをモノにした原田の勝利を誰もが確信した、その直後、悪夢は起きた。
 明らかに無謀な速度で原田のイン側に進入したカピロッシは、原田のマシンと接触。原田をグラベルへとなぎ倒す。速度を落としたカピロッシはそのままコーナーをクリアし、チェッカー。かくして、彼は王座を獲得した。汚れた王座を。

 どうしてこんなことになったのだろう。
 どうして彼は無理をしたのだろう。
 そこまでして獲得するチャンピオンに、何の価値があるのだろう。

 坂田和人は言った、「ゼッケン1と2の間には、常人には理解できない溝がある」と。GP125 でゼッケン1の経験のあるカピロッシは、その違いを十分するほど理解していたのかもしれない。だから、あのような狂気に駆られたのかもしれない。だが、だが、だが・・・!
 私は、カピロッシも好きだった。いつでも、フェアなレースをする彼が好きだった。でも、これからは彼を恨むだろう。少なくとも、原田が彼を許すまでは。今、私は、原田がタイトルを逃したのと同じくらい、カピロッシを恨まなければならないという事実が、ただ、悲しい。Byebye Capi.

・GP500 〜王者を超える者は?〜
 圧巻。それ意外に形容のない勝ち方だった。母国でタイトルを決めたドゥーハンは、スタートからトップに立つと、後続の NSR その他の追随を許さない走りで、独走。勝った事のない最終戦を勝利で終えた。その走りには、かつて見せたような激しさもなく、あくまでもスムーズ。それでいて、ペースが落ちない。まさに王者の走りだった。
 岡田2位、バロス3位、阿部4位と、打倒ドゥーハンの最右翼と目されたライダーたちは今シーズンのレース同様、ドゥーハンの後塵を拝しつづけた。そして、衝撃的なデビューを果たしたマックス・ビアッジも5位に終わった。彼らに残された時間は少ない。ドゥーハンがトップパフォーマンスを維持できる時間は、もう残り少ないのだ。来年こそは、“王者”のドゥーハンを打ち破るライダーとなることを、彼らに、GP500 を走るすべてのライダーに期待したい。

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