特別編 「神々のバトル 〜'90代 WGP 名勝負〜」
第2話:「王者レイニー誕生 〜 '90 チェコスロバキア GP〜」

 一昨年、結果的にはたった一度の転倒でチャンピオンを逃したウェイン・レイニー。「今年こそ」という思いを胸に、YAMAHA YZR を駆る。一方、最多の優勝回数を誇りながら、結果的には4位甘んじたシュワンツ。彼もまた「今年こそ」という思いで、SUZUKI RGVΓを駆る。二人のアメリカの新生が、いよいよグランプリ・サーカスの主役を、緒戦から勤めるシーズンが始まった。

 '90シーズンのレイニーは、実力もさる事ながら、運も見方していた。開幕戦の日本 GP では、前年同様に最大のライバルとなるであろう、エディ・ローソンが転倒、ノーポイントに終わった。また、因縁のライバル、ケビン・シュワンツも続く第2戦、USGP で転倒、負傷。レイニーは労せずに大きなアドバンテージを得ることができた。

 それでも、ヨーロッパラウンドに入ってからは、シュワンツが猛烈な追い上げを見せる。第3戦スペインで3位、続くイタリアで2位を獲ると、その後はスウェーデンGPまで、レイニーかシュワンツのどちらかが優勝するという、激しいレースを見せる。4戦から12戦までの間の二人の優勝回数は、レイニー4回に対してシュワンツは実に5回を数えた。

 しかし、である。シュワンツには昨年同様にステディさが足りなかった。「今年の僕はステディだよ」と、開幕戦の鈴鹿で笑顔とともに答えたコメントは、たしかに本心だったろう。だが、現実は違った。レイニーが優勝したレースで、シュワンツが表彰台にいたレースは、2度しかなかったのだ。ところが、シュワンツが優勝したとき、レイニーは必ず表彰台にいた、それもかなりの確率で2位に。昨年、たった一度の転倒でタイトルを逃した男は、同じ過ちを繰り返さなかった。

 こうしてレイニーは、圧倒的に有利な条件で第13戦チェコスロバキア GP を迎えた。自らの力で3位以上を獲ればチャンピオン。それはレイニーにとっては、十分に達成できる“ノルマ”だった。一方、シュワンツに残された道はただ一つ、優勝だけだった。そして、運命のグリーンシグナルが灯った。

 スタート、シュワンツはまたしても遅れた。今シーズンのシュワンツは中盤以降、スタートを必ずミス、自らを苦しい状況に落とし込んでいた。そして、このレースでも・・・。それを尻目に、レイニーは抜群のスタートを決めた。
 1周目を終わって、オーダーはガードナー、レイニー、ローソン、シュワンツ。ここから、シュワンツは怒涛のスパートを見せる・・・はずだった。少なくとも、彼のシナリオではそうだったと思う。3周目、前を走るガードナーのせいか、レイニーのペースは相変わらず上がっていなかった。ローソンをパスしてきたシュワンツは、レイニーの後ろに付くべく、さらに追い上げる。その矢先だった。マシンのフロントが切れ込み、あろうことか転倒。ライダーもろとも、グラベルに投げ出されたしまったのだ。
 転倒といっても、フロントからのスリップダウン。シュワンツ自身にダメージは感じられなかったし、マシンも外見上ひどいダメージは見られなかった。ところが、さらなる不幸がシュワンツを襲う。マシンから出火してしまったのだ。こうして、シュワンツの'90 シーズンは終わった。チャンピオンへの夢は、消化器のはく白い煙の中へと消えていった。

 この時点でレイニーのシリーズチャンピオンが決定した。レイニーはピットサインで“シュワンツ転倒”の報を知る。しかし、それにまったく動せず、ガードナーとの間隔を保ったまま、ラップを淡々と重ねていく。リタイアでも十分、だが、新しい王者は、早くも王者の風格を纏い、前を行くガードナーを抜きにかかった。11周目、一気にガードナーを抜き去ると、確実にアドバンテージを築いていった。決してガードナーが遅かったわけではない、事実、彼らと3位以下の差は大きく開いていたのだ。ガードナーとローソン、一時代を築いた二人を後方に従えて、ローソンは完璧なる勝利のチェッカーにむけて、淡々と、淡々とマシンを走らせた。

 こうして、2戦を残した段階で、新王者ウェイン・レイニーが誕生した。本格参戦から3年という早さで、レース展開での圧倒的な強さを武器に、手にした念願のタイトルだった。
 ゴールシーン。派手さはなかった。アクセルを緩め、左手の人差し指一つ、高々とかかげ、ゆっくりと、ゆっくりとチェッカーを受けた。そして、万感の思いを込め、天を拝んだ。そして表彰台。そこにはガードナーから手荒いシャンペンシャワーを受け、満面の笑みを浮かべた王者の姿があった。

レースの思い出:
 このシーズン、自分でも不思議なんですが、なぜか印象深いレースが少ないんですよ。一番覚えているのが、文中で出たシュワンツのコメントと、その開幕戦・鈴鹿の最終ラップのシケインでの転倒ですからね。おもわず「おい、あのコメントはなんだったんだ」と突っ込みたくなりました・・・。シーズン展開としては、レイニー・シュワンツ時代では一番エキサイティングなシーズンのはずなんですけど、不思議なもんです。

 それにしても、リザルトをあらためて見直してみても、この年のレイニーは強かった。速いというよりも、強かった。こんなに強いライダーって、近年見たことありません。記録的には昨年のドゥーハンが上回ってますが、多分この年のレイニーのほうが強いでしょうね。こんなに強さが引き立つのも、やはり対照的な速さを持ったライバル、シュワンツがいればこそ。WGP に限らず、モータースポーツの燃えるシーズンには、必ずライバルの図式が存在しますね。今年こそ、出てこい! ストップ・ザ・ドゥーハン!

 レース以外で、この年一番印象的だったのは、500のチームのカラーリングが大移動して、開幕戦でちょっと混乱したことでした。

 Team       '89       '90
YAMAHA ロバーツ Lucky Strike → Marlboro
SUZUKI      PEPSE    → Lucky Strike

とかわって、あげくローソンが Rothmans カラーの HONDA から Marlboro カラーのYAMAHA に戻ったので、ゼッケン1のカラーリングが変りました。おかげで、シュワンツが Lucky Strike カラーなのに非常に違和感を感じたのを覚えています。


 さてさて、こうして念願のチャンピオンを獲得したレイニーですが、その前には予想外の強敵が出現します。それはシュワンツでも、ローソンでも、はたしてガードナーでもありませんでした。
 次回予定:「HONDA 帝国の逆襲 〜ビッグバン・エンジン〜」

2年まとめてのシーズン回顧、そして本コーナーおそらく初のメカ・ネタです。こうご期待。(< 大丈夫・・・か?)



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