「Kanon Saga 後篇」

後編
 ヘイズは扉の前で立ち止まった。自分が踏み出す一歩。その一歩に確実に躊躇している。その自分自身に戸惑う。扉には「副長官執務室」と書かれている。
 ドアノブに手をかける。ノブに内蔵されているセンサー類がヘイズの個人情報を瞬時に読み取る。正確には「ジェイムス・メイソン」と偽装された情報であるが。情報は読み取られ、ドアノブは難なく右に曲がり、扉を押すことが出来た。
 扉を押し、ヘイズは部屋の中に入る。中には大きめの机が一つあり、そのほかにロッカーがあるだけだった。入って右手は全面がガラス張りになっており、昔の国連本部、そして今の国連記念博物館が一望できた。
 机に備え付けられている椅子には一人の男が座っていた。ヘイズはこの人間に覚えがある。PMMO登録式の日にその年に登録された傭兵達の前で演説をした男、ジェイムス・ポートマンであった。
 ジェイムスは入室したヘイズをじっと見つめる。ヘイズも視線を逸らすような事はせずに、その目を見つめる。
「よく来た、スタンリー・ヘイズ。私が君を導いた。そのことは理解していると思う。そして今から私が君に伝えることも理解してもらいたい。そのために私は此処にいるし、君もここに居るのだ。コーヒーでも飲むかね?」
 ジェイムスは右手でカップを傾ける真似をしながらヘイズに話した。
「俺にとって必要なのは説明です。コーヒーではありません」
 そのヘイズの返答にジェイムスは微笑みで答えた。
「よろしい。では君には説明を与えよう。説明の前にいくつか質問をさせてもらう。早速だが、この国に自由があると思うか?建国から三百余年、建前ではこの国は自由の国だ。君はどう思う?」
 ジャイムスは夕暮れに染まるニューヨークを眺めながらヘイズに問うた。
「少なくとも、俺よりは自由だと思いますがね。それにこの国は自由を保障している。私がこの組織の命令で戦ってきた、民族紛争、テロ。それらに比べれば自由そのものだと思います」
 ジェイムスは外を見ながら答える。
「そうか。私はそうは思わない。この国もこの世界も、自由などではありえない。だから私は此処に居るし、君が此処に居る。続けての質問だが、君は何者だ?」
 ヘイズは肩透かしを食らったかのような返答と意味の分からない質問に狼狽した。
「言っている意味が分からないのですが」
 そういうと微笑みながらジェイムスは視線をヘイズに戻した。
「突然申し訳ないな。それでは順序だてて説明していくことにしよう。まずは非礼を詫びよう。君を無理矢理な手段で此処に導いたことを申し訳なく思っている。しかし時間がなかったので、しょうがなかった。もっと早くに君という存在に気づいておくべきだった。単刀直入に言うと、君は存在してはならない人間だ、色々な意味でな」
「どういう意味ですか?」
 ヘイズは目つきを鋭くしてジェイムスに質問する。
「そういう、怖い顔をするな。君は『存在しない機関』ならぬ『存在しない男』なのだ。世連が君を追う理由、それは世連の行った一つの演習を君が阻害してしまったことにある。そして私が君をここに導いた理由は君がその演習を阻害する素質を持っているからだ」
「世連の演習?俺はそんなのに参加した覚えはない」
「君は参加したのだよ。私がそう仕向けた。二週間前、日向重工蜂起事件。あれは世連、いや、もっと大きな組織の演習とその結果だ」
「あの事件が演習?何の?なぜ俺は…?」
「まずは世連から説明しよう。世連、その誕生は君も知っていると思うが、その本質自体はアメリカ建国以前に遡る。私もその本性は知らん。しかし彼らはこの少なくとも三百余年、世界を支配し続けてきた。地球最高権力なのだ。彼らの目標は支配の確立ではない。支配を完全にするためのメソッド、それを扱うプロトコルの完成。その為には行われた一つの実験が日向重工蜂起事件だった」
「何を言っているのかさっぱり分からないのだが?」
「いいかね、我々が語り継いできたと思っている歴史、我々が勝ち得たと思っている自由、我々が守ってきたと思うもの、すべては虚像に過ぎない。この国すら、彼らの手によって建国されたのだ。建国の父なぞは存在しない。すべては虚像なのだ」
「何なんですか?じゃあ、貴方はこのアメリカも今までの歴史もすべてはその「彼ら」によって作られたというんですか?」
 ジェイムスは目を瞑り、首を後ろに倒す。
「そういうことだ。さっき言ったとおり、「彼」らの目的は支配ではない。何故だか分かるか?それはもう既に支配を完了しているからだ。しかし完全ではない。だからその完成を目指している。その為に行った演習、それがこの前の日向重工蜂起事件なのだ。CIDCSシステムのな。」
「CIDCS?」
「Conscious Integration for Defective Common Senceシステムつまり「不完全な共通意識の為の意識的統合」だ。いいか、日向重工は蜂起したんじゃない。蜂起させられたんだ。このシステムに」
「そんなバカな。あれだけ多くの人間を操るなんて不可能だ」
 ヘイズは失笑を漏らしながら答えた。
「そう思うかもしれない。だが、これが真実なのだ。CIDCSシステムは君にもそして私にも組み込まれている。頭の中にな。いいや、頭だけではない我々が親から伝えられてきた塩基配列、既にこの中にCIDCSシステムは組み込まれているのだ」
「じゃあ、俺もその演習とやらで彼らに動かされたというのか?」
「いいや、君は違う。いいか、よく聞け。CIDCSシステムは誰にでも存在している。なぜなら、私も君も、そして地球人口の約8割が受けている電脳化、この基本OSの中にこのシステムの根底が組み込まれているからだ。現代の社会では電脳化は義務化されている、だれもこのシステムから逃げることは出来ない」
「たかが、電脳のOSに組み込まれているシステムごときに人を操ることが出来ると、貴方は真剣に思っているのですか?」
「いいや、君は勘違いしている。彼らが動かそうとしているのは人ではない。社会だ。いいか、君は社会というものを理解していないだろう。社会とは人間が構成する一つのシステムだ。この社会というシステムは中央による強力なコントロールが欠如している。そして各々が、つまり個人個人がサブユニットとして自律的に行動している。そしてこのサブユニットはウェブ状に高度相互接続を果しており、それはネットによる接続だけではない。人々の営み、それによって起こる情報伝達すべてを含む。そしてこのサブユニットである人間は対等に相互に影響を及ぼしあい、複雑に入り組んだ非線形の因果関係を形成している。これらによって生み出される超固体、それこそが社会なのだ。一般にこういったシステムをヴィヴィシステムと呼んでいる。元来、このヴィヴィシステムというものは操作不能と考えられてきた。何故ならばこのシステムを動かすのは一つの中央集権的な思考ではなく、あくまでサブユニット間の情報伝達とそれによっては発生するサブユニットのフィードバックの連鎖だからだ。ヴィヴィシステムのサブユニットは各々は完全に同じものではない。不揃いのリンゴでかまわないのだ。そのリンゴの集合がエデンのリンゴすら作り出す。つまり相互に異なったフィードバックを起こして正確な情報を伝達しなくても、群体としてのシステムは維持できる。何故ならば一部が破綻的に被害を被っても、すべてが並列、ウェブ状に接続されていることにより冗長性が増して、それは群体の中に紛れてしまう。もし、より大きな間違いが発生したとしてもそれは社会間で構成されるより多くの社会という高次のシステムに紛れてしまうのだ。そしてこのヴィヴィシステムは最適化されない。リソースの分配は雑然で不均等だ。その総和として複数の社会が存在し、相互に影響し合うという状況から人間は脱することが出来ないでいる。確かにヴィヴィシステムであっても効率の悪さを軽減しようとする傾向は見られるが、線形システムが行うような非効率性を完全に取り除く最適化を行うことは出来ない。これらはヴィヴィシステムが持つ矛盾した因果関係、つまり水平的因果関係に由来している部分もある。この因果関係ではAはBの原因であるだけではなく、BはAの原因でもあるのだ。そしてAはすべての事象の原因でもあり、すべての事象はまたAの原因でも有り得る。これらを我々が理解することはほぼ不可能だ」
 ヘイズはジェイムスの話を完全には理解できなかったが、ある一点だけは理解できていた。
「貴方はつまりは社会は操作できないと言っているのではないのですか?」
 そのヘイズの台詞を聞いて、ジェイムスは微笑みを浮かべる。
「ほう、理解は出来ているようだな。そう、確かに今まで、私の言った事を考えれば、社会の操作などは不可能と考えられる。しかし、もしすべてのサブユニットに同じ属性を持たせたらどうなるだろうか?いいや、正確に言えばサブユニットが作る社会というシステム自体がすべてのサブユニットが持つ同じ属性なのだが。私の言う属性とは「特定の刺激に関する特定の反応」ということだ。いいか、サブユニットの相互接続によってのみ、システムというものは創発する。しかしヴィヴィシステムというものはまったく同じ属性のものを拒絶する傾向にある。確かに同じ属性で構成されるシステムは素早い反応を期待できる。つまり最適化された理想的なシステムだからだ。しかし同じもので構成されたシステムは確かに安定性はあるが、その代わり柔軟性を失っている。つまり少しの誤差がシステム全体の崩壊を招きかねないのだ。生じた誤差がまったく同じ反応としてシステム全体に拡散してしまうからだ。その点、生態系や社会といったシステムは確かに不安定であり外部要因によってその存在に揺らぎを生じさせるが、不安定という安定によってその形を保っている。そのフレキシブルな部分、つまり冗長性はサブユニットが各々に違った属性を保持しているから生じているのだ。そしてシステムは進化していく。社会がその複雑性を増しているように、生態系が共進化を行うように。このシステムの進化とはサブユニット単体の意思によって発生しているものではなく、サブユニットの総意によって成されている。刺激に対して各々のサブユニットが異なった反応を示すが、その中でもっともシステムに最適だったもの、裏を返せば多数のサブユニットが支持したものがシステムにフィードバックされる。そのフィードバックもまた多様であり、それを支持しているのもサブユニットの個性だ。しかし、もしすべてのサブユニットに同じ属性を意識的に付与できたらどうなる?こうしてしまうとシステムの冗長性は失われると考えるかもしれない。しかしもしその属性を容易に書き換え可能だとしたら?もし必要なときのみに与えられるのであれば?いいか、社会とはもっとも小さい単位では二人の人間から始まるものだ。その二人の社会というシステムに同じ属性、つまりある刺激に関してのある反応という簡単な属性を与えたとしたら、彼らは操作可能なのではないか?複数の同じ属性を付与することによって、彼らは同じ刺激に対して同じ反応を返すことになる。これは操作可能ということを意味している。いいか、この同じ属性を与えるシステム、それこそがCIDCSシステムの目的だ。そしてそれはOSとして既に我々の電脳に組み込まれている。そう電脳自体にはその属性をダウンロードするツールが組み込まれてるだけだ、必要なシステムつまり属性は最適な場所、最適な時に最適な人に送り込まれるようになっている。このシステムの演習こそが日向重工蜂起事件だった。あの大きな事件を発生、制御、収束させられれば局所的な人間の操作は可能になるということだった。いいか、あの時、カウンターテロ課もこのシステムの管理化にあった。日向、警察の戦闘すら操作されていたのさ」
 ヘイズは与えられた情報の量に明らかに混乱していた。人間の社会行動操作するシステム。本当にそれは存在するのか?そんな中、一つの疑惑がヘイズの中を駆け抜けた。
「そうだ、俺はどうなんだ?さっき貴方は俺は違うといった」
「そう、君は違うのだよ。実は今回の演習は結果的には失敗だった。何故だか分かるか?君が居たからだ」
「どういう意味です?」
「さっき言ったな、君は「存在しない男」だと。君は遺伝的に生きていてはおかしい人間なのだ。君も歴史の授業で習ったことがあるだろう。2000年、世界中で感染者数3億、死者300万を出した通称ミレニアムウイルス、正確にはキョウトウイルス。このウイルスは実は作られたのだよ「彼ら」に。いいか、このシステムには実はある遺伝要因で不都合が発生することが分かっていた。そこで「彼ら」はその特定の遺伝要因を持つ人間だけに発症するウイルスを開発した。それがキョウトウイルスの正体だ。そしてCDCやWHOが発表したそう感染者数、あれは欺瞞だ。正確な感染者数は現存するすべての人間。君も私も感染している。現存するすべての人間があのウイルスのキャリアーであり、もし突然変異的にその遺伝要因が誕生した場合人間社会から排除するようになっている。そして君に立ち返るわけだが、君はその遺伝要因を持ちながら生きている人間なのだ。CIDCS阻害因子キャリアー」
「待ってください。「彼ら」という存在はそんな昔からCIDCSシステムを作ろうとしていたんですか?」
「ああ。そういうことになる。おそらくこの阻害因子は属性を脳にダウンロードさせる時に必要な神経配列が普通の人間と異なるのだろう。どのような経路でその時点でこのような因子を発見したのか…それは我々にはわからない。しかし「彼ら」はそれを知って予め排除することにした。人類の電脳化が完了するまでに。しかしどのような過程で誕生したか分からないが、阻害因子を持ちながらキョウトウイルスと共存可能な人間が生まれた。それが君だった」
 ヘイズの混迷は極まっていた。自分の立ち位置を揺さぶられるような発言。それが真にせよ偽にせよ、自分の描いてきた世界は既に崩れ去っている。ヘイズはほとんど無意識のうちに発言する。
「それで、私は貴方に導かれた?」
「そうだ。君を発見したのは明らかな偶然だった。私達も阻害因子の開発を行っていたんだ。阻害因子遺伝子を発現させたまま、キョウトウイルスの発症を抑える薬剤の開発、またはキョウトウイルスの出す毒素を中和する酵素を後天的に遺伝子導入する方法さまざまな方法を試みたがほとんどが失敗だった。しかし君も知ってのとおり、この機関に入るときにそのDNA情報はデータバンクに記録される。そのデータバンクから君が発見されたのだ。我々は政府の各種DNAデータバンクから阻害因子に類似の配列を示す人物を探し出そうとしていた、そこからキョウトウイルスと共存可能にする因子を探り当てようとしていたのだ。この検索に引っかかったものはアメリカ政府とこの機関内でわずか13人。そして君は類似した配列どころではなくまったく同じ配列を示していたのだ。そこで我々は賭けに出た。あの演習に君を送り込み、本当に阻害することが出来るのかを我々も演習したのだ。演習は成功だった」
「俺に…。そんな…。待ってください、なんで貴方はそこまでしてその演習を阻止したかったのですか?そしてあなた方の演習を…」
 ジェイムスはヘイズを真正面から覗き込む。ヘイズはその眼光に一瞬たじろいだ。
「私はな、ヘイズ。この国を、この世界を変えたいのだ。「彼ら」そうもうかくす必要もないが「彼ら」は「アルコーン」と呼ばれる存在だ。グノーシス学派の用語で「支配者」という意味だ。アルコーンの起源はさっきいった通り定かではない。しかし有史以来少なくともヨーロッパの歴史のかなり早期から、そしてアメリカ建国は彼らの手にあった。三度にわたる世界大戦すらもアルコーンの思惑の一つに過ぎないと考えられている。私はそれが我慢ならない。アルコーンによる盲目的な世界支配、その下で樹立される世界政府など意味はあるのだろうか?我々に真の自由など存在しないのだ。そして、あのシステム…。社会を思いのままに動かし、己の欲求を満たす支配者、私はその真実を知ったものとしてそれを許すことは出来なかった。三度に渡る世界大戦はアルコーンがその支配域をヨーロッパ、アメリカ、アジア、中東、アフリカ、南アメリカに広げるための戦争だった。あの大戦の敗戦国と言われている国々はイデオロギーの違いはあったものの、アルコーンへ反旗を翻した者達だったのだ。そして今やアルコーンは世連を建前に全ての国を支配下に置いた。世連はアルコーンの駒に過ぎないが、合法的な全支配体系の確立と考えればアルコーンの目標の一つだった。そして君も私もその駒に過ぎなかったのだよ。アルコーンは直接的な手段で世界を支配してるのではない。巧みな世論操作と経済操作によって駒であるすべての人間を動かしている。いいか、アルコーンの支配を支えているのは我々一人一人であって、彼らではない。その点ではすでにあのシステムは完成しているのかもしれない。しかしさっき述べたように、アルコーンの目的は支配の確立ではない。それを完全にするためのメソッドとプロトコルの開発。既に彼らの目標は最終段階に入っていると聞く。来年の9月11日、世界政府が樹立される。そのときにはシステムは完全に稼動し、人間はその思想すらも操作され、完全な支配が確立される。私はそれを阻止したい。それが、全てを知ってしまった私の役目だと思っている」
「そんな、そんなことを私に信じろというのですか?貴方の言っていることが根も葉もない嘘だという証拠が何処にあるんですか?」
「確かに私の言ったことには何の根拠もないであろう。しかし、君が体験したことは事実だとは思わないか?君は知っているだろう。あの日向の件のバックには世連が絡んでいたことを、そして私以外にも世連に反抗を試みているものが居ることを。そう、君を此処に導くのを手伝ってくれた、弟橘や開拓者達だ。彼らもまた世連いやアルコーンによる支配を恐れ、そして戦っているのだ。しかし互いに理想が異なり共闘するとまではいかない」
「では貴方は何者なんです?」
「私か?私はもうじきこの任を降りる。そうせざるを得なくなる。もうじき一つの権力が失われる。そのとき、私も自動的にこの任を下ろされる。そして始まるだろう。私の新しい道が。そして君は始める気はあるか?君自身の新しい道を。私はここにバッドボーイズというテロ組織をを立ち上げる。アルコーン支配からの脱却を図り、すべてを終わらせるのだ。そのためには武力による解決しかありえない。そして、君を此処に導いた理由、そう君にこの組織に参加してもらいたいのだ」
 ジェイムスは机の引き出しを開け、そこから二丁の拳銃を取り出した。その銃の安全装置を外しながら、説明を始める。
「河口重工社製平和構成傭兵機関制式拳銃Gooder−145。君も使い慣れた、銃だろう。いいかね、PMMOはその結成以来、国家という枠組みに捕らわれない平和維持機関として機能してきたと思われている。しかし、実際はアルコーンとその隷下にある軍産複合体の思惑を反映するように動かされて生きた。つまりこの銃を使うものに自由は与えられないし、この銃によってもたらされたのは平和ではなく、一方的な破壊だった。そしてもう一つ、もはや元はどこのメーカーが作っていたかもわからない拳銃…。コピーにコピーを重ね、世界中のテロリストに渡り、人を殺め続けている拳銃。まぁあだ名として昔の名銃の名前をそのまま使ってカラシニコフなぞと呼ばれて入る。確かにこの銃はこの数十年、人を殺め続けてきた。しかしそれは権力への抵抗と自由への代償だったのかもしれない。君には選択して欲しい。どちらを取るか。束縛か自由か?」
 ヘイズはその銃の両方をジェイムスから受け取り、眺めながら言う。
「貴方は私のことをよく知っている。下手をすれば私以上にね。では知っているでしょう?私がPMMOに入った理由も。私はテロリストを殺すためにPMMOに入った。そんな私に貴方はテロリストになれとおっしゃるのですか?」
 ヘイズはジャイムスの顔を直視しながら大きな声で言った。しかしジェイムスは表情をまったく変えない。その無表情さには強い意志が感じられる。
「その通りだよ。スタンリー・ヘイズ。しかし君が恨むテロリストWNWは世連の一つの実行機関に過ぎないということも君はもはや理解しているだろう。それでもなお、君が今の自分の立ち居地を維持しようとする理由はなんだ?いいか、後数分で私は行動を起こさなければならない。もうじき大統領ウォルト・シアーズが世連反逆罪の疑いで更迭される。これはもう決まりきったことだ。その瞬間、彼が世連から隠していた私の行動やバッドボーイズ設立の流れはすべて世連に知れる。そして君のこともだ。だから立ち去るなら今のうちだ。ジェイムス・メイソンとしてこのまま生きるか、スタンリー・ヘイズとして生きるか?それは君自身が決めることだ。いいか、もう一度言う。君の目の前に、二つの銃がある。一方は束縛と順応を、もう一方は自由と抵抗を意味している。君はどちらを選ぶ?束縛か自由か?もう一度言う。君の目の前に、二つの未来がある」
そういうと同時に部屋の中に放送が流れた。
『ただ今、ウォルト・シアーズ大統領が世連反逆罪で更迭されました。長官、副長官は部屋を出ずに、その場で待機してください。これは世界政府準備連合直接命令です。』
「いよいよ、始まりのときだ。ヘイズ、君はどうするのだ?」
 ヘイズはひたすら銃を見ながら考えていた。この男の発言は何処までが真実なのだろうか?自分が日向で体験してきたこと。そしてそこから導き出される答えはディティールは除いたとしてもジェイムスの言うことに一致している。ヘイズはそう考えていた。しかしこのままテロリストになるということは自分が今まで信じてきたことをすべて捨てなかれ場ならなかった。今までの信念、行動を否定して…。ヘイズは別に戦うことが怖いのではなかった。しかし今までの自分の行動を自ら否定しなければならないことが怖いのであった。
 何人かの足音が部屋に迫ってきたのが分かる。その足音は一瞬、部屋の前で止まり、ノックもなしに部屋に入ってきた。ノブを回して入ってきたということはもはやこの部屋のセキュリティはジェイムスの手を離れているのが明確であった。
「ジェイムス・ポートマン。貴方を重要参考人としてお連れいたしたいのですが、よろしいですかな。歯向かえば容赦なく射殺いたします」
 リーダーと思しき男は銃を構えながらジェイムスに言った。その周りに4人の同じ武装の兵士が並んだ。手には全員、河口重工社製平和構成傭兵機関制式拳銃Gooder−145を握っていた。そのうち一人はヘイズに重工を向けていた。
「これは、これは手厚い歓迎だな。さぁ、ヘイズ。君の答えを聞かせてもらおうか?束縛か自由かどっちだ?」
「そこの男。君も来て貰おうか」
 ヘイズは兵士達が入ってきた瞬間に前に自分の前に拳銃を隠していた。背を向けているのでしばらくはばれない。
 兵士が銃を構えてヘイズに近づいてくるのが分かる。ヘイズは窓に目をやって状況を確認した。相手は全部で五人、武装は拳銃。その立ち位置などをすべて頭に叩き込む。
 兵士はゆっくり警戒しつつ近づいてきている。もうすぐヘイズが隠した拳銃がばれる。
「私の答えは…」
 ヘイズはそう言いながら兵士達の方に振り向き、一人につき二発、正確に眼球に弾丸を捧げていた。振り向く動作のわずか1秒ほどで、ヘイズは兵士達全員を殺傷したのだった。兵士達は全員生身だった。
 発砲音が耳に残留し、硝煙が鼻を突く。かすかに血の匂いも混じっている。ヘイズは全員を殺害したことを確認し、ジェイムスの方へ振り向く。
「まだ貴方が正しいのか、私が正しいのかはわかりません。しかし、今できる、今出せる、最大の答えはこれです。これはお返しします。」
 そういうとヘイズは河口重工社製平和構成傭兵機関制式拳銃Gooder−145をジェイムスに差し出した。


To Be Continue

答えを知ることを恐れるな
己を知ることを恐れるな
未来を知ることを恐れるな
貴方は恐怖すら知りえていない

Next Passage〜そして、抵抗へ〜

あとがき
長らくお待たせいたしました。カノン、忘れてはいませんでしたか?まぁそれはさておき、今回の話、スミマセンね…説明文ばっかりで…。しかもその説明自身がややこしかったと思います。勘弁してください。今回の話からついにカノンサーガが始まりますが、まだ富樫が始まり終えていないので、次回は富樫の話。これでついにエピソード1に入ります。次はなるべく一ヶ月中にお届けしたいと思います。