2004年1月21日の奈良地裁判決に関するコメント


2004年1月31日
公益通報支援センター

記者会見をして事業者の不正を公益通報(内部告発)した従業員を、奈良地裁(2004年1月21日判決)は解雇権の濫用法理で救済しました。
――内閣府の骨子案ではこの外部通報は保護されない危険性があります――


1 事案の内容
(1) 奈良県生駒市の家庭用ごみを収集する被告会社の従業員3名が、記者会見等を行ってその業者のごみ不正混入行為を告発し、それが新聞に報道されたたため会社の信用が毀損されたとして解雇されたケースです。

(2) 従業員が告発した内容は次のとおりです。
[1] 被告会社は、生駒市より、家庭用ごみの収集を年間4億5596万円で請け負っていた。収集した業者はその家庭用ごみを生駒市の焼却場に無料で搬入することになっていた。事業用ごみについては同焼却場に搬入すると10sあたり50円の手数料を払う約定であった。上記家庭用ごみの中に事業用ごみを不正混入すれば、被告会社は上記手数料の支払いを免れることになるのでそれを日常的に実施していた。
[2] 被告会社の従業員2人が家庭用ごみの中に事業用ごみを混入している様子が何者かによってビデオに撮影されていた。このビデオに原告の1人が映っていた。このような不正混入はこの日だけでなく以前からも多々行われていた。
[3] 以上の不正混入事実を3人の原告らが市議会議長らと面接して報告し、また、記者会見も行って、上記不正混入問題を公表した。

(3) これに対し、被告会社は、従業員3名を解雇した
[1] 原告ら3名は、生駒市と被告とのごみ収集契約を解消させる意図のもと、組織的に行っているかのごとき内容で会社の信用を毀損した。
[2] 原告の1名は不正ごみ収集を自ら行い、その行為を第三者にビデオ撮影させ、それを市に持ち込み、事実を歪曲して被告の信用を毀損した。
[3] よって、就業規則上会社に不利益となる事項を外に漏らしたこと等を理由とするものであった。


2 判決内容
(1) 本件不正ごみ混入問題については、被告がごみを混入するよう指示したとは認められない(この点で原告の供述は裏付かない)。しかし、この不正混入はほぼ毎日のように数台にわたって行われており、従業員の偶発的なミスの蓄積とは考えがたく、また、業者は混入の問題を認識しつつ有効な対処をとらず、従ってこれを黙認していた。
 従って、記者会見の内容については、事実関係の主要な部分で真実である。

(2) 原告らの行為の中で「いささか軽率な面があったものの、もとは混入を回避すべき体制を作ってこなかった被告にも責任の一端があるというべきであり、この点をさしおいて、原告らのみが不利益を被ることは不均衡、不合理というほかはなく、新聞報道以来、結果的には被告の営業実態が是正、改善されたという面も否定できないのであるから、これを総合的にみても、解雇に処すべき非違行為があったとまではいうことができない。」「また、被告は、原告らの上記各行為が被告が改善を実施した後のことであることや、原告らから被告に対し混載についての改善の申入れなどがなく、いきなりマスコミに訴えたことなどから、不正を正すという原告ら主張の目的に疑義を挟むけれども、被告において対策を講じた後であっても、従前の混載の問題としては依然として会社の対応等が残っていたなかでの原告らの記者会見は、真相の解明や市民に対する説明という点で一定の役割を果たした点は否めないというべきである。」「10月15日のビデオ撮影についても、ごみ収集の際、原告Aが、撮影されていることを知っていたとの事情をうかがうことはできるものの、撮影対象とされた行為自体をみると、当日のみ、ことさら不正な混合収集をしてそれをビデオに撮影させたものではなく、事実を歪曲したものとまではいえないし、撮影者との共謀までを推認するに足る証拠もない。」

(3) よって、解雇権の濫用により無効である。


3 内閣府の骨子案との比較検討
(1) 本件の場合、骨子案では、記者会見をして公表したことはいわゆる外部通報に該当します。外部通報の要件については次のとおり定めています。
 『犯罪行為等の事実が生じ、または生ずるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、次のいずれかに該当する場合におけるその者に対し当該犯罪行為等の事実を通報することがその発生またはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報。
イ.(内部通報)または(行政機関への通報)の公益通報をすれば解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合。
ロ.公益通報をすれば当該犯罪行為等の事実に係る離拠の隠滅等のおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合。
ハ.労務提供先から(内部通報)または(行政機関への通報)の公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合。
二.書面(電磁的記録を含む)により(内部通報)の公益通報をした日から二週間を経過しても、当該労務提供先等から当該犯罪行為等の事実について、調査を行う旨の通知がない場合または正当な理由がなくて調査を行わない場合。
ホ.個人の生命または身体に危害が発生し、または発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合。』

(2) 本件の場合、そもそも「労務提供先」に対し何ら改善の要求をせず、突然マスコミに通報していることは明らかです。 当該労務提供先から「口止め」されたということが云々されていますが、判決はこの事実を一切認否することなく、「そもそも、ごみ不正混入を回避すべき体制を作ってこなかった被告にも責任があり、この点をさしおいて原告らのみに不利益を被らせることは不均衡、不合理というほかなく」として、業者の違法性の問題との関係で「解雇に処すべき非違行為があったとはいえない」としています。
 さらに、「いきなりマスコミに訴えたこと等から不正を正すという原告らの目的に疑義をはさむけれども」「被告において対策を講じた後であっても真相の解明や市民に対する説明という点で一定の役割を果たした」として、内部告発の社会的役割という面からも救済しています。

(3) 本判決は、通報者の外部通報の手続のみを判断したのではなく、事業者の不正行為そのものの責任や告発の社会的役割という側面も考慮して、解雇を無効としています。
 これに対し、本骨子案は、事業者の違法性の程度、内容や公益通報の社会的役割等を一切考慮することなくひたすら外部通報の要件が労働者側にあるかどうかだけを審査の対象とする点で、いかに「不均衡、不合理」であるかが判明します。悪いことをした事業者を批判するのではなく、外部通報をした従業員の形式的手続が守られているかということだけで保護するかどうか審査の対象とするのです。
 本骨子案の外部通報の要件は、抜本的に修正されなければ現行の判例水準を引き下げることになります。


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