公益通報者保護法の成立にあたっての意見

2004年6月14日
公益通報支援センター
代表 森岡孝二、片山登志子
辻 公雄、高橋 利明


1.本日、公益通報者保護法が国会で可決されました。近いうちに公布され、2006年4月から施行予定となったと報じられています(同法の全文は、こちらをご覧ください)。
 本法律について当支援センターは修正を求めましたが原案のまま成立したことは残念であります。しかし、私達が指摘した問題点は衆参両院の附帯決議において取り入れられました。問題の残る不十分な法律ではあります。しかし、法律として制定された以上、この法律面のプラス面を生かしマイナス面を運用面でもって補い、公益通報者が真に通報しやすい環境を作ることが重要です。そのために以下の意見を発表します



2.行政機関への提言(要求)
(1)本法は、公益通報において通報対象事実を受付ける「処分又は勧告等をする権限を有する行政機関」の役割が大きい法律として作られました。行政機関が、受付けた通報に真に適正に対処するのであれば、本法律は効果を発揮します。しかし、公益通報があっても、その通報をたらい回しにしたり、放置したり、まして事業者に通報者の個人情報を漏洩したりするようなことがなされれば、本法の根幹を揺るがすことになり、この公益通報制度は破綻いたします。そういった事態を防止するためには「処分又は勧告等をする権限を有する行政機関」の責任が重大です。

(2)そのために、まず内閣府に公益通報に関する総合案内センター(または相   談室)を設置することを求めます。本法は通報対象事実を政令で定められた法律の犯罪事実に制限し、しかも通報先を「処分又は勧告等をする権限を有する行政機関」としました。
 さらに本法の対象外の通報事実も一般法理で保護されるという極めて難しい法構造になっています。そのため、通報者が犯罪事実等を通報しようとする場合に、それが本法の対象となる「通報対象事実」に該当するかどうか、該当する場合にはどの行政機関に通報するべきか、アドバイスする必要があります。また本法の対象外の犯罪事実であっても一般法理で保護される場合もあるので、その場合にどのようにすべきか等についてもアドバイスすることが重要です。
このような入口段階の問題について相談に応じることができる専門のスタッフをそろえた公益通報に関する総合案内センターを設けることが不可欠です。さもないと職場で法令違反、犯罪事実を通報しようとして、本法の解釈を誤ったり、通報先を間違えたりして、結果として善意の通報者が保護されないというような事態が発生することになります。そうなると本法律による公益通報は死滅し、本法律を制定した意味が失われてしまいます。それゆえ上記の案内センターの設置は非常に分かりにくい法律を制定した内閣府の責任でもありまです。

(3)「処分又は勧告等をする権限を有する各行政機関」ごとに公益通報受付窓口を設置することを要求します。
[1] その場合には各行政機関がどのような犯罪事実についての通報を受理するのか、通報を受付けた後の具体的手続き、通報者が望む場合はその氏名などの個人情報を絶対に秘密にすることを明確にして、設置する必要があります。多くの善意の通報者は、必ずしもマスコミなどに公表してその企業などに社会的制裁を与えることを期待していません。なによりも違法行為が是正されることを願っています。このような通報者が安心して通報できる受付体制作りが求められています。国の場合は省庁別に、地方自治体の場合は自治体ごとに窓口や手続き等を明確にすることが求められます。それらを広く社会に対し啓蒙宣伝することが必要です。
[2] 行政機関に対して公益通報があったにもかかわらず当機関がそれを放置したり、適正に処理しなかったり、事業者と通謀して通報者に対して不利益な取り扱い等をしたりするケースも多く報告されています。その点で通報の受付受理は相当教育・訓練された人に担当させることが重要です。
本法は公益通報を受付けた行政機関の責務として、通報対象事実を調査できるという規定(いわゆる権限を付与した規定でない)ではなく、「調査を行い法令に基づく適当な措置をとらなければならない(法10条1項)」という義務規定にされています。
もし適正な通報があるのに、それを放置したために、消費者などに被害を与えた場合は、権限不行使による国家賠償請求を受ける可能性もあるからです。


3.外部通報先となるマスコミ、消費者団体等への要請
(1)本法は外部通報について一定の制限をする内容となりました。しかし本法に規定されていない場合以外は一切外部通報が禁止されたと解することは正しくありません。国会での質疑応答や衆参の附帯決議(衆議院及び参議院各附帯決議第1項)にみられるように、外部通報も一般法理によって保護されるようになりました。例えば、政治家、企業の政治資金規正法違反や公職選挙法違反等は本法の対象外ですが、それらの通報は一般法理で保護されることになります。また、行政機関に通報したけれども放置されているとか、相当期間経過するも調査しない場合等のケースでは、本法3条3号のイ、ロ、ハ、ニ、ホに該当しませんが、一般法理が妥当すると考えて、外部通報が認められるケース等、多々ありえます。まして、公益通報者の相談にのりアドバイスすることまでは、本法の通報ではないのですから、なおさら公益通報の受皿が必要です。

(2)よって、本法において外部通報先となるマスコミ、消費者団体、労働組合等においても公益通報受付窓口(例えば「公益通報ホットライン」等)を設置することを要請します。当センターに相談のあった多くの通報者はマスコミに通報したいが、どこに、どのように通報すればよいのか、またその場合通報者の氏名等の個人情報が企業等に漏れるのではないか、さらにはマスコミ等に自己の氏名等が発表されるのではないかとかの不安を持っている人が多いのが現実です。マスコミ等の受け皿を早急に作っていただきたく要請いたします。
 これらの事情を配慮した受皿が作られれば、外部通報も増えるでしょう。またそれは行政機関の怠慢を監視する役割を持ち、ひいては、公益通報が真に社会に根付くものになることに寄与すると思われます。


4.事業所内部の通報窓口(ヘルプライン等)のあり方
(1)本法においては、事業所内部の通報窓口のあり方については直接定めていません。しかし、3号イ「前2号に定める公益通報をすれば解雇その他不利益な取り扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合」には外部通報を認めることになっているので、内部通報窓口のあり方がこの条文の関係で問われることになります。

(2)内部通報窓口を設置しているが形だけであったり、「不平、不満分子」のあぶり出し機能を持つような通報窓口であったりしてはならないのは当然です。外部通報を萎縮あるいは防止させる通報窓口であってもなりません。

(3)本法の趣旨、附帯決議の内容からみて、事業所内部の通報窓口は、
[1] 公益通報をしたとしても一切不利益取り扱いをしないということは当然です。さらに、犯人捜しもしない、万一、周囲の従業員らが職場八分等の不利益取り扱いをした場合は直ちに中止させることも当然です。通報者が希望する場合は氏名等の個人情報をたとえ社長であっても一切開示しない等の義務を定めていなければ3号のイをクリアーできるかどうか問題が生じます。多くの事業所等では公益通報をした場合、上記のような不利益取り扱いを受けているのが現実であるからです。そしてこのような規定は一度従業員に通知しただけでは足りず、従業員が常に見ることのできるHP等に掲載するなどしなければ周知徹底したことにはなりません。
[2] 内部通報窓口の担当者が総務部、人事部の者(将来そのような部署に転勤の可能性がある者を含む)の場合は、通報窓口そのものが機能していないと判断される可能性もあります。
[3] 外部の人間であれば誰でもよいということにはなりません。事業者から独立して、法的に通報者の秘密の保持義務を持つ者(弁護士、公認会計士等)が最も適当であると思われます。しかし、顧問契約等で会社と利害関係を有する弁護士や公認会計士、または取締役等の知人の弁護士、公認会計士等であってはなりません。企業への忠実義務と通報者の個人情報の保持義務が矛盾することとなり、また取締役らの知人であれば友人という道義的な信義と法的義務とが矛盾するからです。その点では、弁護士会や公認会計士協会からの推薦を受けた企業と全く無関係の弁護士、公認会計士であれば、たとえ裁判になってもこの条項をクリアーできることは明らかです。消費者団体等の推薦を受けた弁護士等であれば誰も異議を述べないでしょう。

(4)いずれにしても、事業所内部の従業員らが安心して通報できる通報窓口であるかどうかがキーワードです。それが今後問われることになります。


5.最後に
 公益通報者保護法が制定されても、ただちに公益通報が増加するわけではありません。また、通報者が必ずしも保護されるものではありません。わが国の企業、団体の中に強固に形成された「密告」「タレコミ」「仲間への裏切り」等の意識は簡単には変わらないからです。公益のための通報者が保護されるよう、社会意識を変え、この法律のプラス面を定着させることができるかどうかは、行政機関をはじめ関係各団体が不断の努力によって公益通報をしやすい環境をどのようにして作るかにかかっています。



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