大阪地裁堺支部いずみ生協事件判決について


6月18日、大阪地裁堺支部でいずみ生協事件の判決がありました。内部告発を真正面から正当と肯定して損害賠償を認めている点で注目されます。今回の判決は、今後のその他の判例のみならず、内閣府の「公益通報者保護法案」の審議に少なからず影響を与えると思われますので、こにに判決の意義についてのコメントを掲載します。参考までに判決文もリンクしておきます。

判決文はこちら



公益通報(内部告発)の正当性を認めた判決
大阪地裁堺支部いずみ生協事件



1 2003年6月18日、大阪地方裁判所堺支部は、公益通報(内部告発)の正当性を認めて、その実行行為者である旧理事個人に対し慰謝料を命じる判決を出した。

 本判決は、
[1] 内部告発の正当となる一般基準を示したこと。
[2] その要件の審査にあたっても、内部告発の実態を正しくとらえて事実認定していること。
[3] 慰謝料として、原告Aに対し金180万円、原告Bに対し金170万円、原告Cに対し金150万円の損害賠償金を元理事2名に対し命じたこと。
 に特徴がある。

今までの判例では、公益通報者(内部告発者)の懲戒解雇無効訴訟において、解雇権の濫用法理を活用して無効とした判決があるが、これほど真正面から内部告発の正当性の基準を示して判決した事例はない。
 今回の判決は、今後のその他の判例のみならず、内閣府の「公益通報者保護法案」の審議に少なからず影響を与えると思われる。


2 事案の概要

(1) 生協に職員として雇用された原告3名は、平成9年5月20日開催の総代(552名)の大半である530人、及びその他の関係者らに対し、元生協の理事らの公私混同等の事実を記載した「いずみは何のため誰のための組織?その組合員への背信行為の実態」と題する文書(本件告発文書という)を匿名で送付した。

(2) 本件告発の内容は、
[1] 生協私物化のシンボル「狭山御殿」と題して、「生協の建物を元理事が私邸として居住している」等として同理事の公私混同の事実を批判した
[2] 生協の費用でゴルフ会員権を専ら自己使用に使っている事実
[3] その他、日常運営費の私物化等を批判した内容であった。

(3) これに対し生協は、原告ら2名に対し、生協に対する名誉毀損等を理由として、自宅待機(平成9年5月27日)、懲戒解雇処分(平成9年6月10日)を行い、残り1名に対し配転命令を発した。原告らは地位保全の仮処分申立を行い、結果その解雇は無効であるとして平成11年6月30日仮処分決定が出され、その後平成11年8月18日復職した。

(4) しかし原告らは、生協ならびに当時の上記懲戒解雇を命じた元理事らに対し、損害賠償請求を行った。生協との間では上記措置を謝罪することで和解が成立したので、元理事個人らに対する損害賠償訴訟だけが残り本判決となった。


3 判決が示した「内部告発が正当となる一般基準」

 内部告発の内容の根幹的部分が真実ないしは内部告発者において真実と信じるについて相当な理由があるか、内部告発の目的が公益性を有するか、内部告発の内容自体の当該組織体等にとっての重要性、内部告発の手段・方法の相当性等を総合的に考慮して、当該内部告発が正当と認められた場合には、当該組織体等としては、内部告発者に対し、当該内部告発により、仮に名誉、信用等を毀損されたとしても、これを理由として懲戒解雇をすることは許されないものと解するのが相当である。

 本件内部告発の内容は、公共性の高いいずみ生協内部における事実上の上位2人の責任者かつ実力者における不正を明らかにするものであり、いずみ生協にとって重要なものであること、本件内部告発の内容の根幹的部分は真実ないし少なくとも原告らにおいて真実と真実につき相当な理由があるというべきであること、本件内部告発の目的は高い公益目的に出たものであること、本件内部告発の方法も正当であり、内容は、全体として不相当とは言えないこと、手段においては、相当性を欠く点があるものの、全体としてそれ程著しいものではないこと、現実に本件内部告発以後、いずみ生協において、告発内容に関連する事項等について一定程度の改善がなされており、いずみ生協にとっても極めて有益なものであったと解されることなどを総合的に考慮すると、本件内部告発は、正当なものであったと認めるべきである。したがって、いずみ生協は、本件内部告発につき、虚偽の風説を流布したなどとして、これを理由に原告内田及び同坂田を懲戒解雇することは許されないものと言うべきである。


4 具体的要件の審査と認定

(1)(真実性)
 本件内部告発文書の根幹部分において、「生協の資産の私物化、公私混同の事実があり」また「真実であると信じるにつき相当な理由がある」と認めた。一部に不正確な部分があり、また表現に誇張が見られること等問題点は無くはないが、その内容自体が生協にとって看過すべからざる問題を取り上げているので、全体として不相当とはいえない。

(2)(目的等)
 本件告発の内容が、被告らの私物化をやめさせその不正を正す内容であり、また、告発後その私物化は阻止されその運営において一定の改善がなされていること、さらに、内部告発の目的も旧理事らの不正の実態を知らしめてこれを止めさせ生協の運営の改善を図る目的であったと述べており、不純な目的に出たことをうかがわせる証拠はない。

(3)(手段の相当性)
[1] 匿名による告発は、告発された側としては、その告発内容の真偽の確認が困難である場合があり得ることから、一方的に被告発者が名誉や信用等に回復不可能な損害を被る危険性があることは否定できない。しかしながら、もし、氏名を明らかにして告発を行えば、被告らによる弾圧や処分を受けることは容易に想像され、本件内部告発前にも、被告らが批判を許さない態度を示していたことも考えると、このような場合には匿名による告発もやむを得なかったと言うべきである。
[2] 500人以上の総代会直前の配布は総代会が混乱する危険があったが、業務執行権を有する被告らに期待できない場合、総代会に問題提起するのは自浄作用を期待する点からみてもむしろ当然であり、相当性を欠かない。なお、最高責任者の不正行為を正すためには多少の混乱は避けがたいのであり、告発がない場合よりもはるかに大きな利益がもたらされるのであるから、多少の混乱が伴うべきことをもって手段、方法が相当でないとはいえない。
[3] イ.資料の持ち出しや他の職員の私物を無断に持ち出した点については相当性を欠く面があるが、もっとも本件内部告発において用いられた一手段が不相当であったとしても本件内部告発全体が不当となるわけではなく、本件告発の目的、内容、とられた種々の手段等を総合的に判断して、それが正当かどうかを判断すべきと解される。
ロ.生協内部の文書を無断で複写して持ち出した点は、本件のような内部告発を行うためにはこうした行為は不可欠というべきものである一方、持ち出した文書の財産的価値自体もさほど高いものでなく、しかも原本を取得するものでないから、生協にとって直ちに被害を及ぼすものでない。よって、手段においても相当性を欠くことにならない。


5 損害

(1) 原告A
 [1] 職場内での待機等、自宅待機及び懲戒解雇の慰謝料 150万円
 [2] 名誉毀損されたことによる慰謝料 30万円
   計180万円

(2) 原告B
 [1] 自宅待機、懲戒解雇 140万円
 [2] 名誉毀損 30万円
   計170万円

(3) 原告C
 [1] 自宅待機と配転 120万円
 [2] 名誉毀損 30万円
   計150万円


6 内閣府の「公益通報者保護法案」との関係

(1) 内閣府が準備している公益通報者保護法案では本件内部告発はそもそも保護されない。本法案で保護されるのは「消費者利益に関する利益」の告発であって、本件のごとき役員の公私混同等についてはそもそも本法案の対象とならない。

(2) 仮に、本法案にこのような事業者の理事の公私混同を含めるとしても、本件のごとき総代会の直前にビラを配布する行為については保護されない危険性がある。もしこれらの理事が、生協内部においての告発についてはまず事業所内部の「窓口」に通報するかまたは行政機関に通報するよう職員に徹底していた場合は、本件のごとき匿名でしかも総代会の直前に総代会の「混乱」が予想されるような行為については、本判決のごとく、その目的、告発内容、とられた種々の手段等を総合的に審査することなく、その手続違反により保護されない危険性を有するからである。

(3) 内閣府の本法案の抜本的修正をしない限り、判例によって認められている基準が、逆に法案を作ることにより保護されない危険性がある点に注意しなければならない。


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