「公益通報者保護法」についての意見書

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はじめに

 昨年12月に発表された内閣府・国民生活審議会消費者政策部会の「21世紀型の消費者政策の在り方について−中間報告−」を受けて、内閣府で検討されてきた公益通報者保護制度の原案(事務局案)が発表されました。各方面の期待と注目のもとに検討されてきた制度ではありますが、この原案がそのままの立法化されますと、かえって内部告発を封じ込める役割を果たすのではないかと危惧されます。

 そこで「公益通報支援センター」として、本センターに寄せられた相談事例に照らして、内閣府の原案(事務局案)の問題点を検討し、以下のような「意見書」をまとめ、内閣府の「公益通報者保護制度検討委員会」に提出しました。(2003/5/18更新)

 なお、ここで問題とされている2003年5月7日現在の原案(事務局案)の全文は、内閣府の「消費者の窓」ホームページに掲載されている以下のPDFファイルでご覧になれます。
http://www.consumer.go.jp/info/shingikai/kouekiiinkai5/shiryo1.pdf

2003年5月2日版の「意見書」はこちらをご覧ください。



「公益通報者保護法」についての意見書

公益通報者保護制度検討委員会 御中
2003年5月15日  

公益通報(内部告発)支援センター
代表 森岡孝二 (関西大学経済学部教授)
外3名

第1 結論

 内閣府が現在検討している事務局案のままで法案が立法化された場合、通報範囲等が極 めて制限的であり、とりわけ外部通報の保護要件が厳しすぎ、かえって真の公益のための通報が封じ込められる有害な役割を果たす危険性が高い。
 通報の範囲を拡大するのみならず、外部(被害を受けた消費者や、マスコミ、消費者団体、NPO等の民間団体)への通報も抜本的に保護する法案として提言すべきです。



第2 理由

1 はじめに

(1) 今回の内閣府の事務局が提案している「公益通報者保護制度の具体的内容」(以下 これを本法案といいます)は、あたかも全ての内部告発者が保護されるかのような形をとっていますが、実はそうではありません。一例を挙げましょう。

・日ハムの従業員が牛肉偽装問題を消費者団体に内部告発をしてこの事件が発覚したと仮定しましょう。この従業員を会社が解雇しても、今回の本法案だと保護されません。その理由は、通報によって保護される本法案の範囲は「消費者利益」であって、国に対する詐欺罪は通報の範囲外だからです。
・牛肉をある業者が外国産を国内産として売却していた。それを従業員がその購入者に通報した。購入者から事情を聞いたマスコミがそれを取材し、その事実が社会に明らかになった。この場合でも、会社に「ヘルプライン」があれば、その手続を遵守しないで消費者に直接通報した手続は違法となり、保護されない可能性があります(事業所内部に通報すれば不利益な取り扱いを受けると信じるに足りる相当の理由がないのに、自己が不利益を受けると信じて外部の消費者へ行った通報は保護されないのです)。 
・その他保護されない例外が多すぎます。

(2) この本法案が成立すると、
[1] 企業はまず、内部通報手続制度を作ります。いろいろなヘルプラインを作ります。真のヘルプラインではなく、外部通報を防ぐための制度です。
[2] 企業が指定する通報先に関する制度について、従業員が安心して通報できる制度として社会的に確立したヘルプライン制度は今の日本にはありません。よってどんな制度でも作ればヘルプラインになります。
[3] そして従業員に対し、「わが社は『ヘルプライン』『内部通報手続制度』を作ったからこの制度を利用されたい。もしこの制度を利用しないですぐに外部通報をすれば、従業員を解雇できる法案が通った」として逆に内部告発を封じ込める手段として大いに利用されます。本センターに寄せられた相談事例として、ある会社は、検事上がりの弁護士を顧問として受け入れ、従業員に対して「今後は何かあればこの弁護士等に通報していただきたい。もし外部通報すると、解雇、損害賠償ならびに窃盗、横領罪で告訴する」と「恫喝」さえしています。
今、公益通報の封じ込めに躍起になっている企業、団体にこの法案を与えると、公益通報を封じ込める法案に変えられてしまいます。

(3) 私たちの公益通報支援センターが2002年10月28日に発足してから約6ヶ月が経過致しました。この間通報のあった件数は合計120件余りです。このうち本法案が適用されるのは全体の約20%です。80%は本法案が成立してもそもそも適用の対象外であります。のみならず、本法案ならば、かえって有害な役割を果たす危険性が高いと判断致します。すなわち、本法案は、いわゆる内部告発を企業と行政当局内部に封じ込める法案と化し、外部(被害を受けている消費者やマスコミ、消費者団体等)への通報は違法として保護しない危険性を有しているからです。 


2 内閣府の公益通報者保護法案の概括的な問題点は以下のとおりです。

(1) (対象事業)
 通報できる対象は基本的には民間の事業者の活動です。国、自治体、官庁などにおける公務員等の税金の無駄遣いや職権乱用等の違法行為は本法案では保護されません。国、地方自治体、公益法人等に関する通報がそもそも保護されないのです。しかし、今回は基本的には民間企業の事業者を対象にして、国、地方自治体等の「官」の違法行為の公益通報者保護法は別途作ることにつながるならば、あながち不当とは思いません。

(2) (通報の範囲)
[1] 事業者の活動のうち消費者利益を侵害する法令に違反する事業活動に限定されています。その結果、
 ア.消費者利益に関係がない事業者の違法行為、例えば総会屋への利益供与、金融不祥事で問題となった違法・不当貸付、談合、政治家へのヤミ献金、補助金・助成金の不正請求などは除外されます。また、本法案の名称も社会に誤解を与えます。法案を消費者利益に限定するなら、「消費者利益通報者保護法」とすべきです。
 イ.消費者利益を侵害するが法令に違反しない不正、不当行為などは除かれます。例えば外国では有害であるとして問題になっている添加物や薬などでも、日本の法律で禁止されていないケースを通報した場合は保護の対象外となります。
[2] 私たちは、今回の法案について、事業者の活動に制限することは認めるとしても、消費者利益を侵害する法令に限定するのではなく、次の事項を通報範囲に含めるべきと考えます。
 事業者の活動によって、
・ 人の生命、身体、健康、安全、多数の者の重要な財産等に対する危険性がある場合
・ 犯罪行為、法令違反
・ その他著しく公益を害する場合
 仮に消費者利益に限っても、法令違反だけでなく、不正、不当行為により消費者利益を侵害する危険性のある場合も含めるべきであります。 

(3) (保護される通報者と保護の内容)
[1] 保護されるのは従業員だけです。退職した人や派遣社員、下請社員等は検討対象とされていますが、問題が残ります。まして取引先などは保護されないことが明らかです。雪印の場合は取引業者の告発でしたから保護されません。
[2] 保護内容は解雇等の不利益な取扱いだけです。しかし当センターに通報があったケースでは、会社の情報を外部通報したことで事業者よりその損害賠償をするとか刑事告訴 する等と言われているケースがありましたが、これも保護の対象外です。
[3] 保護内容を解雇等の不利益処分等の禁止という事業者の不作為だけでなく、さらに事業者に次のごとき積極的な義務をも規定すべきと考えます。具体的には、
・通報者(犯人)探しをしてはならない
・その他の従業員をして通報者に対し不利益な取扱いをさせてはならないし、また、その他の従業員が通報者に対し不利益な取扱いをしている場合は、直ちにその是正措置を採らねばならない(会社、団体が通報者に不利益な取扱いをしなくとも、同僚、上司が通報者に「密告者」等とレッテルを貼り、職場から孤立させ、退職等に追いやるケースが報告されているからです)。

(4) (通報者が保護される要件)
[1] イ.通報者の誠実性が要件となっています。
  ロ.真実性が要求されます(当時真実であると信じるにつき合理的理由がある場合となっていますが、かなり高い証拠がないと認められない可能性もあります)。
[2] 公益通報は多くの消費者や市民や社会一般を保護する目的であるから真実であれば良いとすべきで、それ以外の誠実性の要件は、事業者が逆に誠実性の要件がなかった事実を証明することにより不利益な取り扱いを正当化できる要件にすべきです。

(5) (外部通報の保護要件)
通報先によって保護される要件が異なります。特に問題なのは、通報者が事業者の外部(例えば、被害を受けた消費者や消費者団体、マスコミや我々のような民間センター)に通報した時の保護要件です。
 次の要件をいずれも満たすこと。
 [1] 「誠実性」および「真実相当性」の要件を満たすこと。
 [2] 事業者外部への通報が適切であること。具体的には次のような場合が考えられる。
  a.通報時において、当該労働者が事業者内部又は行政機関に通報すれば事業者から不利益な取扱いを受けると信じるに足りる相当の理由がある場合。
  b.当該労働者が事業者内部に通報すれば証拠が隠滅されたり破壊されるおそれがあると信じるに足りる理由がある場合。
  c.当該労働者が事業者内部又は行政機関に当該問題を通報した後、相当の期間内に通報の対象となった事業者の行為について適当な措置がなされない場合。
  d.通報の対象となった事業者の行為により、人の生命又は身体に危害が発生し、又は発生する緊迫した危険がある場合。
 [3]通報の対象となった事業者の行為によって発生し、又は発生するおそれのある被害の内容、程度等に応じて、被害の未然防止・拡大防止のために相当の通報先であること。
 以上が内閣府の考えている原案です。

 これについての問題点の概略は次のとおりです。

イ [3]の「通報の対象となった事業者の行為によって発生し、又は発生するおそれのある被害の内容、程度等に投じて、被害の未然防止・拡大防止のために相当な通報先であること」については、私たちはこの要件がもし必要ならば次のとおり修正すべきであると考えます。
 「通報の対象となった事業者の行為の法令違反等の内容、軽重、公益侵害の内容、程度、及び外部通報先、通報者がその外部通報先に通報するに至った諸事情等に相当性があること、または相当であると信じたこと」。
 私たちは「公益」に関する通報である以上、内部通報、行政機関への通報、外部通報等のいろいろな通報先があるべきであると考えています。そのような多様な通報先があることが、逆に事業者に対する違法、不正行為を抑止する力になると考えているからです。
 しかし他方、どのような企業の違法、不正情報を社会に通報させればよいのか、そのことが企業の自浄能力を発揮させることとの関係でプラス作用に働くのか又はマイナス作用に働くのか、わが国の企業の場合にその予測が不可能であります。その点で「事業者の悪質性」や「公益性」が強いケース、またその逆のケース等について、その通報先との相当性について検証が必要と考えているので、上記のごとき外部通報に至った諸事情に相当性がある場合の要件を考慮して決定すべきであると考えるからです。

ロ  そして、上記[2]のa〜dの要件を全部削除すべきであると考えます。
 外部への通報についての保護要件のうち、[2]aが最大の問題なので、別途3でこれについて検討します。
 ・[2]c「当該労働者が事業者内部又は行政機関に当該問題を通報した後、相当の期間内に通報の対象となった事業者の行為について適当な措置がなされない場合」
 この要件についても、一旦事業所内部や行政機関に通報した以上、当面是正される見込みがあれば外部への通報は認められないことになります。しかし、まず通報者が実名で通報したとしても、行政は是正したかどうかその結果を通報者に連絡しません。匿名の場合はなおさらです。また、「当面」という要件が極めてあいまいであり、これでは通報者が一度行政機関等へ通報した以上は、相当長期間外部へ通報出来ないことになります。東電の原子力の検査データーを隠蔽した事件も通報後2年も経過しています。もしこの法案だとこの間何の動きも出来ないのです。
 ・[2]d「通報の対象となった事業者の行為により、人の生命又は身体に危害が発生し、又は発生する急迫した危険がある場合」
 この要件も極めて厳しすぎます。人の生命、身体への危険があれば足り、「急迫した」の要件は削除すべきです。人の生命、身体への危険性があれば、それ以上の要件は不要です。さらに生命・身体への危険に限らず「消費者利益にとって重大な性質の問題」についても外部への通報が保護されるべきです。
 原案のままでは、本法案は、消費者の生命、身体や消費者の利益より事業者の「安全」を守るための法律となってしまうでしょう。


3 外部への通報保護要件についての検討

(1)「公益通報者保護法案」の立法目的
 公益通報者保護法は、企業、団体の違法、不正行為によって消費者を含む多くの市民の生命、身体、健康、安全、多数の人の財産等の「公益」が侵害されてきた事実から出発し、その抑制防止の手段の一つとして、その立法の検討に入ったはずであります。その場合の立法の趣旨は、消費者等の「公益」をどう守るかにあったはずです。しかるに、本法案を見る限り、どのような通報者を保護するかより、むしろどのような通報者を保護しないのか、通報を事業所内部、行政内部に通報するということに固執し、その結果、本法案が立法化されても、結局のところ消費者等の公益を守ろうとする通報者をかえって今以上に萎縮させてしまう危険性を内包していると感じざるを得ません。
 以上の根本的立場から、公益通報者保護法を検討するとすれば、通報者の主観的要件や通報の手続要件を厳格に制限せず、事業者等の行為が消費者の公益を侵害しているという真実性の要件が充足される限り原則保護されるべきであると考えます。批判されるべきは、そのような違法、不正行為をしている事業者であり、通報した従業員の動機やその通報の仕方の手続ではないからです。

(2) 外部への公益通報者を保護するかどうかは、原則として、通報内容(事業者の違法、不正行為の内容、その軽重やその悪質性、消費者の被害内容、程度、広がり等)をまず第一義的に検討すべきです。しかるに、本法案では、通報の内容の問題よりは、上記[2]a〜d及び[3]の外部への通報の「手続」が限定的に保護要件として過重されていることによる弊害が通報者を著しく制限することになります。
 特に上記[2]aのうち「通報時において、当該労働者が事業者内部に通報すれば事業者から不利益な取り扱いを受けると信じるに足りる相当の理由がある場合」という要件は通報者にとって酷であり、且つ、通報を中止させる理由となる危険性があります。その理由は次のとおりです。
 事業者内部に「ヘルプライン」や「スピークアップ」の制度がある場合は、外部通報の多くはその手続が原則違法とみなされるからです。事業者がとにかく内部通報手続制度を作り、それを従業員に説明しさえすれば、従業員が不利益な取扱いを受けると信じたことの相当性は無くなるからです。通報者において逆にヘルプラインを利用せず外部通報をした場合に「不利益な取扱いを受けると信じた相当な理由」を立証しなければなりません。「信じるに足りる相当な理由」が認められるためには、通報者が以前不利益処分を受けたことがある場合や、通報受付担当者がこれに関与しているケース、またはそれを容認しているケース、事業者のトップが関与しているケース等、極めて例外的な場合にのみに限られます。
 事業者内部の通報制度が従業員にとってどれだけ信頼できるものか、またその実態がどうなのかはわかりません。後から「真実」はこうだったのだと事業者はいくらでも説明ができるからです。
 また、通報受付担当者が関与しているかどうかも不明な場合があります。まして事業者のトップが関与または部下をしてさせている場合もあります。(それが従業員には通報段階では判明しません)
 このような場合は内部のヘルプラインを通報をするかどうか判断できません。

 具体例で検討しましょう。
 ある企業の支店で国の助成金の不正受給をしているとの通報がありました。この場合、支店だけの違法行為なら仮に本店に内部通報手続制度があれば本店のヘルプライン等に通報することも可能でしょう。しかし、当該従業員から見れば、本店も関与して同じように不正受給をしておれば本店のヘルプラインに通報は怖くて出来ません。従業員から見れば通報段階では本店の状況はわからないのです。
 この場合、まず本店のヘルプラインへ通報しないで外部に通報すると、『不利益な取扱いを受けると信じるに相当な理由』を証明しないと救済されないのです。
 このようなケースの場合は、本人にとって何の利益もなく、また本店のスピークアップに通報することにも心配があるのでそれも出来ません。外部に通報するのも法律で保護されないので出来ず、結局は中止しましょうという結論になります。
 また、総会屋の利益供与の裏金作り等は、社長、専務等のトップが関与しているのか、または知っていても知らぬふりをしているのか、それともその担当部長だけが行っているのか全く判らないケースが多々あります。もし裏金作りにトップも関与している場合、それを社内通報すれば、その従業員は解雇されなくとも終生会社の上層部から「裏切り者」「信頼のおけない輩」というレッテルを貼られます。通報者本人にとって一生の問題ですから、石橋をたたいた確実なケースしか外部通報が出来ず、また「内部通報」すること自体にも危険性がある以上、結局のところ、事業者の不正行為は従前のまま放置されることになるでしょう。
 このようなケースは規制行政当局がある場合でもない場合でも行政当局が市民から信頼を得ていない現状では同じです。

(3) 以上のごとき結論に私たちが達したのは、多くの通報者の相談にのる中で、わが国 では内部通報することもいかに困難か、という実態を知り得たからであります。
 第1に、公益通報に関して、従業員本人は心理的にも道義的にも抵抗感を持っています。わが国の企業の場合、会社のためであるならば違法、不正行為を行うという従業員意識が強固に形成されています。通報は、会社、仲間への裏切りであり背信と考えている通報者が多いのが現実です。これはヘルプラインが制定されても一朝一夕には変わりません。
 その結果、通報者は「公益」よりも「企業利益、仲間利益」を優先しがちです。上記のような心理的葛藤を経て、通報者は、通報することが長い目で見て会社のためや社会のためと思いやっと決断したとしても、通報によって自己の身分、処遇に不利益を受けることの危険性を抱いています。たとえ会社が不利益な取扱いをしなくとも、上司や仲間がその者を「仲間はずれ」にします。そのために、私たちのセンターに一度は通報したけれど途中でその通報を撤回、中止したケースが相当数存在しています。

・国のある省庁から委託を受け開発している○○○製品について、そのデータを会社が改ざんしている事実について悩んでいる通報がありました。しかし、相談している過程の中で、もしこの事実が内部告発からであると判明すれば通報者は職場に居れなくなる危険性があるので中止することになりました。ところが、本法案が出来ても、このようなケースは事業者間の取引ですから通報範囲外とされます。仮にこの点をクリアーしたとしても、内部通報を原則とするような本法案だとこの人は永久に黙ってしまうでしょう。もしこのデータの改ざんが重大な○○○製品の安全性に関するものであれば、多くの市民等関係者の安全に影響を与える危険性のある事実が封じ込められることになってしまうのです。(このような場合こそ規制当局がないのですから外部通報を保護することにより事業者の違法行為を是正できる可能性があるのです)

・ ある大手○○公団の談合事件についても、関係者から通報がありました。、しかし相談の過程の中で、通報すれば自分もしくは数名の者が疑われ、そうなれば会社に居れなくなるか、または会社が処分しなくとも仲間から「会社、仲間を裏切った者」として批判され、結局職場には居れなくなると心配して中止となりました。

 このように公益通報について内部通報のみならず外部通報さえ困難な状況の中で、外部通報についての厳しい手続要件は、ますます通報者を黙らせる結果となります。

 第2に、内部通報したために不利益な取扱いを受けたケースが多数報告されています。

イ Aさんのケース(大企業)
内部通報をして解雇された人ケースです。。
通報内容はある上司の公私混同です。通報先は当時の担当部長と社長であった。しかし翌日、総務部長より呼び出しを受け、密室で鍵をかけられて詰問され、その後、病気を理由に解雇された。『大企業の遣り方だと思った』と批判しています。今後、「正しい告発者」が不利益を受けぬよう、努力して欲しいと願ったメールが当センターに寄せられています。

ロ Bさんのケース(公務員)
 上司が、飲食代等のレシートを持ってきて、立て替えたので公費で支払うよう言われたが関係のないものがあった。悩んだ末に、「○○○相談窓口」という部署に通報したケース。この通報により結果的にはその上司がその請求を取下げた。しかしその後その上司から別室に呼ばれ、まず通報したことを責められ、この事務には君は不適格である旨を告げられた。そして今現在もそのような指摘を受け続けながら、同じ上司と顔をつき合わせて仕事をしている事で悩んでいるケースです。
この人は、『内部告発をした人間は裏切り者と言われることを初めて実感しました。多分これは内部告発をした人間にしかわからないさまざまな痛みでした。失ったものの大きさは計り知れません。どうか私のような思いを誰もしないよう内閣府に訴えてください。早急に正しい意見が通るような法案づくりをしてください』と悲痛な叫び声をあげています。

ハ Cさんのケース(上場企業)
経理関係の担当者が、その作業の過程で、不正経理を発見。その可能性に関する報告並びにその是正の提言を経営陣に申し出た。ところが、突然、部長から健康上の理由で就業禁止を命じられた。
 その他、内部に通報をしたために不利益な取扱いを受けたケースが多数よせられています。
 このように、事業所内部への通報でも、わが国の企業の風土では「異端」であり「密告者」であり、その結果、企業、団体内部で有形無形の圧力を受ける実態を有しています。ヘルプラインができたからといって一朝一夕にこれら企業風土が変わるとは思われません。このような企業風土の中で『ヘルプライン』があれば内部通報を原則とするのは危険です。

(4) 「従業員が行政機関に通報すれば、事業者から不利益な取扱いを受けると信じるに 足りる相当の理由があること」についても問題があります。
 [2]aでは、事業所内部への通報と行政機関への通報が択一的に記載されていますが、本法では公益通報が「行政機関の取締の補完作用」のために設けられていることからすると、現実には、内部通報をしなかった点が仮にクリアーできたとしても、次いで、行政機関への通報を何故しなかったのかが争点となります。行政機関へ通報することにより事業者から不利益な取扱いを受けると信じるに相当な理由の立証は不可能です。
 行政は企業と癒着し、企業の不正を是正できないケースがあります。また、癒着していなくとも、規制当局は事業者の違法行為を見逃していた責任を問われる立場に立ちます。そのためにウヤムヤにするケースもあります。又、行政に通報したために行政が会社に氏名を教え不利益な取扱いを受けたケースも報告されています。しかし、この実態を裁判官はおよそ理解できません。行政に通報した場合には不利益な取扱いを受けると主張しても、裁判官は到底そのような主張を理解することができません。法律の建前から、行政はきちんと通報を処理するはずであるという思いこみで判断するからです。

(5)仮に何らかの外部通報についての制限要件が入るとしても『その他通報者が外部通報に至った諸事情に相当の理由がある場合、またそれを相当と信じた場合』の一般的保護要件を入れるべきです。
たとえば、スピークアップ等会社が定めた内部通報手続制度を利用しなかったが、
 [1] 内部の会議で、「この点は違法ではないか。問題あり。」とその是正を何回も伝えているが、是正されないケースや、
 [2] 会議で主張したが是正されず、上司に相談したが放置されたり、また、仕方がないのではないかと言われたりした等
 についてまで、さらに内部通報手続制度を活用しなかった点を非難できないからです。従業員としていろいろ努力したがやはりだめだと思い、内部通報手続制度を活用してもだめと思い、結局、外部通報する場合があります。このことを非難できません。

 現実にセンターに相談があったケースです。
 親会社へ納入する製品のデータを改ざんしたことについて会社の役員にまで相談しました。しかしその役員にも「止むを得ない。仕方がない」と言われ、そこで仕方なく親会社の人に相談したところ、会社の内部の情報を親会社に開示したとして解雇されそうになり、弁護士に依頼して解雇を阻止したケースがあります(これも本法案だと外部通報に入ります)。
 外部通報を救済する方向で一般的条項を入れなければ、どのようなケースが発生するか不明だからです。本法案では救済するケースを限定列挙しているため、それ以外は保護されないことになるからです。よって救済する方向での一般条項が必要です。

(6) 以上のとおり、本法案のままでは、外部への通報を阻止する法案になり、結局のところ内部通報もなくならせる危険性があります。このような問題のある本法案のままであるなら、「公益通報者保護法」を制定するより、現在の裁判例のように一般法理に基づいて個々の事案ごとに通報者の保護について判断される方が、通報者の適切な保護がはかられることは明らかです。
 社会にとって有益な公益通報を葬り去ることなく有効に活かすためには、公益通報者への確実な保護が必要です。現在より公益通報者の保護を狭くするおそれのある本法案には私たちは賛成できません。抜本的な修正、改革を求めます。



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