抗生物質でおなら?

某ドラッグストア店の医薬品売り場。
「あの……おならがでて困るんですけど」
中年くらいの女性のお客様がいらっしゃいました。
「おならですか?」
薬剤師は確認をしました。
「ええ。実は――」
その女性は経緯を話し始めました。
なんでもその女性、風邪かなということで医者に行ったそうです。
まあ、やはり風邪ということで薬が出ました。
ここでひとつ。
たかだか風邪なのに医者に行くと薬が多いなあって気がしませんか?
ドラッグストアで買える風邪薬なんか1日3回・1回3錠。果てまた、1日2回・1回1カプセルで済むものもあるのに、調剤薬局でもらってみると、散剤はあるわ、錠剤はあるは、カプセルまである……ところもある。
普通に薬局で買う薬っていうのはいわゆる「総合感冒薬」です。
熱に痛みに咳に鼻水にも対処出来るくすり。
さて、病院の薬。
総合感冒薬みたいなのもでますが、他にもでます。
その薬の代表的なものが「抗生物質」
まあ、簡単に言えば、『細菌』が発育・繁殖しないようにするくすりです。
「それじゃ、要するに風邪の菌をやっつけるのか!」
と思った方、実は違うんです。
風邪はそのほとんどが『細菌』が原因ではなく、『ウイルス』が原因とされています。
実はこの「抗生物質」。
『細菌』には効くんですが、『ウイルス』には効かないんです。
なんてこった〜!!
それじゃ、「抗生物質」は何のためにだされているのか?
風邪なんかを引くと、今度は咽喉なんかに『細菌』が感染しやすくなるので、いわばその「予防」のために出されているワケらしいのです。
話を戻してその女性。
やはり抗生物質も出されたようです。
それもちょっとおもしろい抗生物質。
1日1回3日間服用するだけで、なんと約7日間作用が持続するというもの。
昨年、日本では発売されたばかりのくすりで、私はたまたま少し前の研修でやっていたので知っていたのですが。
どうもこれがおならの原因だったようなんですよね。
さて、なんで抗生物質でおならがでてしまったのか?
本来、腸には細菌が住んでいます。わかりやすいのが乳酸菌。
「生きて腸に働く」とかCMしてますよね。まさにそうで、この細菌がおなかの調子を整えています。さて、抗生物質。これは「細菌」を発育できないようにするものだといいました。
そう!!
抗生物質で悪い菌だけじゃなく、必要な菌まで死んでしまったんです。
もう少し正確に言うと、腸の細菌のある種は死んでしまったのですが、その代わりに抗生物質で殺されなかった菌が増殖したりして菌のバランスが崩れてしまったのです。
だから、おならが「ぷ〜」
しっかもよく考えてみれば!
なんせ3日間でくすりは飲み終わっちゃっていました。
なのに、7日間も薬の作用は持続。
よって、おならもとまらない〜!
普通、なにか不快な症状が出たら、その原因だと思われるくすりの服用をやめれば、まずその症状は治まるのですが、飲んじゃったものはもうどうにようもなりません。
とりあえず、死んじゃった細菌を補えばどうにかなるだろうということで、乳酸菌のくすりを勧めました。
風邪は治ったのにおならが……。
こりゃ、たまったもんじゃないねと薬剤師は二人で語り合ったとかなんとか。

さてさて、その1ヶ月後。
風邪を引いて下痢をされたお客様が来店。
なんせ今年の風邪の特徴は吐気と下痢。まあ、今年の風邪の典型的パターンかと思ったのですが、よくよく聞いてみると、病院へ行ってくすりをもらってきたとのこと。
「……」
もしかして!!
よく聞いてみるとそのお客様も1日1回3日間服用で作用は約7日間持続という例のおくすりを飲んだとか。
「――それだ……」
こちらも腸の細菌のバランスが崩れてしまったため、便通がおかしくなってしまったというわけです。

そこで、ちょっとフォロー。
抗生物質の代表的な副作用は下痢です。
これはほとんどすべての抗生物質に共通といって差し支えないと思います。
理由は上記に述べたとおり。
だから抗生物質と整腸剤は一緒に処方されることが多いそうです。調剤薬局勤務の友人の話によると。
それで私、上記のくすりの副作用を調べてみました。
副作用発現率は成人で4.35%。つまり、100人中約4人。その副作用のうち、消化器症状(下痢・おならetc.)が72%。つまり、100人中3人に消化器症状が出るというわけ。これは決して高い数値ではありません。
直接的なデータでおならはないようなのだけど、市販後の海外データに「鼓腸放屁」というのがあるので、まあ、間違いないでしょう。

「くすり」の副作用をむやみに恐れることはないです。
そのあまりに適切な治療を受けることが出来なくなってしまう方がよっぽど怖い。
ただ、「もしかしたら」の症状を見逃さないようにするのは大切だと思います。

ただね、実際のところ、風邪でくすり飲んで、風邪は治ってもおならが止まらなくなってしまうなんてイヤだ〜!とは思った出来事(爆)

追記へ
〈2001.12.9 up〉
私と同僚の薬剤師が経験した話。
この話を書こうと思っていたら、同じくすりを飲んだお客様が下痢で来店されたと聞いてビックリ。
この辺りの医者はみんなこのくすりを出してんのかねえと語り合った。
薬剤師になってはじめてくすりの副作用を身近に感じた出来事。