技術士試験合格体験記

【はじめに】
 私は平成21年度技術士・一次試験(農業部門)、並びに平成22年度技術士・二次試験(農業部門:農芸化学)に最終合格することができました。技術士試験では建設部門の受験者が全21部門の約6割と大部分を占めますが、農業部門は受験者数が全部門中5位(平成22年度)と比較的メジャーな部門です。

しかし農業部門の約75%は「農業土木」区分の受験者で占められ、「農芸化学」区分は約4.7%(平成22年度)に過ぎません。このため国家一種受験時と同様に試験に関する情報(出題傾向、出題内容の詳細など)が殆どなく、私自身非常に困りました。技術士試験(特にマイナー部門・区分)の受験生は、私のように情報不足の方が多いのではないかと思います。そこで、来年以降の技術士試験を受験される方々に情報を提供する意味で、私の今回の体験をホームページに載せることにしました。




【受験動機】
 結論から言いますと、技術士は国家一種・技術系行政官とは違う形で、自分の仕事の延長から社会に貢献できる資格であると考えたからです。

大学院を卒業した後、私はとある民間企業に就職しました。この企業で技術顧問を勤められていらした方が技術士であり、仕事を行う上で参考になるアドバイスを私に数多く下さりました。この方のアドバイスが特許取得や新商品開発につながり、会社の企業競争力を高めることができました。この方との出会いで初めて「技術士」という資格があることを知りました。

技術士は国家資格(名称独占資格)であり、「登録し技術士の名称を用いて、科学技術に関する高等な専門的応用能力を必要とする事項についての計画、研究、設計、分析、試験、評価またはこれらに関する指導の業務を行う者」と技術士法第2条に定義されています。すなわち技術士は国より高い専門知識・専門技術を有することを認められ、民間企業(主に中小企業)への技術指導などを通じてその企業の競争力、ひいては日本の産業競争力の向上に貢献する技術者であると換言することができます。

こうした経緯から民間企業に入社した直後に技術士を意識し、受験資格を満たした平成21年度より技術士試験を受験する運びとなりました。




【勉強方法】
〈一次試験〉
基礎科目
 基礎科目は1.設計・計画、2.情報・論理、3.解析、4.材料・化学・バイオ、5.技術関連の5分野より構成されます。このうち「2.情報・論理」でアルゴリズム、集合及び構文図が、「3.解析」で微積分や数値解析など計算問題が出題されます。これら2分野は、与えられた条件から構文図や計算式を作って解答を導く力を養っておくことが重要です。一方で他3分野については大部分が知識問題ですので、参考書を使用して頻出用語を中心に暗記することをオススメします。

私は『技術士一次試験 基礎・適性科目キーワード700』(日刊工業新聞社)で必要な知識を覚え、『技術士一次試験 基礎・適性科目必須問題150問』(日刊工業新聞社)で知識問題や構文図・計算問題をこなしました。


適性科目
 適性科目は簡単に言えば、技術士法第四章『技術士等の義務』の遵守に関する適性を問う問題です。このため、技術士を目指す方なら必ず覚えなくてはいけない『3義務2責務』をまず覚えなければなりません。この時にただ丸暗記するのではなく、「『3義務2責務』が何故必要なのか?」を理解するのがポイントです。こうすれば『3義務2責務』を深く理解した上で覚えられるので、忘れることが殆どなくなります。

ではこの『3義務2責務』を何故ここまで覚える必要があるのかと言いますと、少し先の話ですが二次試験・口答試験で必ず質問される項目だからです。この『3義務2責務』をここで深く理解しておけば、後々の展開が楽になります。

『3義務2責務』を深く理解することができたら、適性科目を解くための土台はできたも同然です。あとはこれと公益通報者保護法や個人情報保護法、社会時事を『3義務2責務』と照らし合わせながら見ていきましょう。具体的には、『技術士一次試験 基礎・適性科目キーワード700』(日刊工業新聞社)で法律や社会情勢と技術者倫理との関係性を学習し、『技術士一次試験 基礎・適性科目必須問題150問』(日刊工業新聞社)で問題を解いていきましょう。

適性科目は一次試験の中では比較的簡単であり、上記のような学習法でほぼ合格点を取ることができるでしょう。


専門科目
 専門試験では、「全35問のうち、25問を選択して解答する」ことになっています。このため専門試験は一見すると、問題選択に幅があるため勉強し易い感じです。しかし専門問題35問の中で、「農業土木」「農村地域計画」及び「農村環境」の問題が占める割合が約3割になります。ちなみに平成21年度では、これら3分野の問題数は35問中13問ありました。従ってこの3分野に関しては、自分の専門科目が異なっても勉強しなければなりません。

ではどうすれば良いのか。結論から言うと、『技術士第一次試験演習問題 農業部門III』(新技術開発センター)の問題を解くのがオススメです。この参考書は、専門問題で出された過去問を分野別に何題か解説していますが、この解説部分がとても参考になります。「なぜ間違っているのか」を丁寧に解説しているため正答部分だけでなく、間違っている部分も含めて誤った選択肢も覚えていけば、効率的に勉強を進めることができます。上記3分野の勉強は、経験上この一冊だけで十分だと思います。

上述3分野の他には、日本における食料・農業・農村に関する時事的な問題が出題されます。平成21年度では、こうした問題が5問出題されました。このため時事問題に関しても、確認しておいた方が良いでしょう。対策としては、『平成21年度 食料・農業・農村白書』(農林水産省編)を通して読んでおくのがオススメです。

上記の対策が一通り済んだら、専門試験の過去問に挑戦してみましょう。3〜4年分に遡って問題を解くと共に、間違った問題の復習もしっかりやりましょう。こうした勉強と自分の専門科目の復習を合わせて行えば、合格点は十分取れると思います。




【一次試験の結果】
基礎科目10/15
適性科目14/15
専門科目32/50
基礎科目と専門科目との合計42/65
合否判定合格




〈二次試験〉
業務経歴書の作成
 一次試験を無事突破されたら、技術士になるには避けて通れない二次試験の勉強が始まります。二次試験の勉強を始めるにあたり、注意しなければいけない点があります。それは『業務経歴書』の作成です。

技術士試験の二次試験では、願書を書く時から試験が始まっていると言われます。それは業務経歴書の記載事項が、二次試験や技術的体験論文(二次試験・口答試験でプレゼン資料として使用します)で記入する[専門とする事項][技術的体験論文の記述内容]にダイレクトに関係するからです。このため業務経歴書を書く時は、二次試験・筆記試験を通過した後に提出する体験論文の内容を十分に考慮する必要があります。

技術的体験論文で書く業務内容(2例あります)を決めたら、業務経歴書を所定の手順(日本技術士会のHPを参照して下さい)に従って作成しましょう。基本的に「大学院における研究経歴」と「業務経歴」を記入します。この際に注意点が1点あります。それは『研究内容もしくは職務内容に記載する事項は、どういう課題・問題点があった中でどういった工夫を加えたかを念頭に置いて記載する』ことです。

業務経歴書は、体験論文を提出した後に行われる二次試験・口答試験において資料の一つとして面接官の方が参照にされます。この時に業務経歴書と体験論文で、それぞれ担当業務の課題・問題点と解決策を示しておけば、面接官の方々を納得させられる可能性がより高まります。制限時間内に面接官を納得させることが合否に直結する口答試験において、業務経歴書の作成は非常に重要なウエイトを占めます。

話がそれて恐縮ですが、今申し上げた内容を分かりやすく下記の2点に集約します。

(1)業務経歴書を作成する作業と技術的体験論文の題材の決定は、同時に行う。

(2)業務経歴書における研究内容もしくは職務内容に記載する事項は、どういう課題・問題点があった中でどういった工夫を加えたかを念頭に置いて記載する


一般科目
 農業部門に限らず、技術士二次試験の一般科目では、『論理的考察力』『課題解決能力』が問われます。こうした能力を具体的に説明すると、下記の通りです。

●論理的考察力
与えられた情報もしくは持っている情報を整理し、筋道を立てて考え、自分の考えをとりまとめる能力

●課題解決能力
与えられたテーマ(課題)に関して、課題の実現を困難にしているボトルネック(問題点)を見出し、それらに対する技術的かつ実現可能な解決策を提案できる能力

農業部門の場合、最近の一般科目では図やグラフなど与えられた情報を基に論述するケースが多くなっています。こうした傾向を踏まえ一般科目を効率的に勉強するには、『平成21年度 食料・農業・農村白書』(農林水産省編)『平成21年度 技術士第二次試験「農業部門」解答事例集』(新技術開発センター)を利用して知識を吸収すると共に、『技術士第二次試験の論理的攻略法』(オーム社)で論文の書き方を学ぶのが良いと思います。特に『技術士第二次試験の論理的攻略法』は、問題文の書き方に対応した柔軟な論文記述能力が身に付きますので、個人的にオススメです。

一方で『平成21年度 技術士第二次試験「農業部門」解答事例集』は問題点の洗い出し、解決策の提示に参考になる部分があるものの、間違った記述が散見されます。実際に使用する際は、鵜呑みにはしない方が良いでしょう。


専門科目
 専門科目では、『専門知識』『応用能力』が問われます。こうした能力を具体的に説明すると、下記の通りです。

●専門知識
自分の専門分野に関する技術的な知識

●応用能力
原理や既存知見、理論などを利用目的や評価基準を明らかにした上で、与えられた条件・場面に応用し、新しい知見を創出する能力

ここで注意して頂きたいのは、一般科目で述べた『論理的考察力』『課題解決能力』を持ち合わせていることが前提となっている点です。すなわち専門試験では、与えられたテーマに関して、専門知識や原理などを用いて論理的に説明すると共にテーマが抱える問題点を導き出し、その問題点を解決するのに効果的な解決策を実用化の可能性を含めた技術的見地から述べることが重要です。

専門試験の勉強法に関しても、『技術士第二次試験の論理的攻略法』(オーム社)が有効です。なお専門試験では、時事的なテーマが出題される傾向が強いです。自分の専門分野に関するこれまでの専門知識・技術は勿論ですが、時事的な事項もチェックしましょう。この際に有効なのが、『日本食品科学工学会誌の巻末にある技術用語解説』です。ここでは、時事的な専門用語や技術を比較的分かりやすく説明しています。これまでの専門試験において、平成21年度に出題された「バクテリオシンのナイシンA」が日本食品科学工学会誌08年1月号に、平成22年度の「ユニバーサルデザインフード」が同08年2月号の技術用語解説にて説明されていました。この技術用語解説を過去3〜4年分まで遡って詳細に調べれば、時事対策は十分ではないかと思います。なお私はユニバーサルデザインフードを技術用語解説を通じて詳細に調べており、本番では満足のいく答案を書けたことが合格の要因となりました。


技術的体験論文
 二次試験・筆記試験に合格したら、合格発表から概ね2週間以内に技術的体験論文を提出する必要があります。体験論文は個人的には、遅くても10月初旬から書き始めた方が良いです。合格発表後に慌てて論文を作成することは大変な手間であり、仕事との兼ね合いからもオススメできません。

体験論文を作成する上では、『技術士受験を応援する第二次試験合格法 口答試験編』(鳥居直也編)がオススメです。
体験論文を書く際の注意点は、「体験論文は口答試験でのプレゼンツールである」ことと「体験論文を書き終えたら、必ずチェックしてもらう」ことです。特に2点目については、周りに技術士の方がいらっしゃなければ、技術士受験生の方なら知らない人はいないと言われるほど有名な『技術士受験を応援するsukiyaki塾』の講師の方にお願いするのが良いと思います。私もここの講師の方にお願いして、体験論文を添削して頂きました。


口答試験
 体験論文を提出したら、最後の関門である口答試験の対策に時間の許す限り全力を投入しましょう。技術士試験では弁理士試験などとは違い、口答試験で不合格となると翌年は筆記試験からやり直さなければなりません。せっかく筆記試験を通過したのですから、口答試験まで進めたチャンスを是非生かしましょう。

口答試験の対策には、先程も述べましたが『技術士受験を応援する第二次試験合格法 口答試験編』(鳥居直也編)一冊だけで十分です。ここに書いてある質問事項に対する自分なりの(技術士としてふさわしい)冗長でなく簡潔かつ的を得た回答を、技術的体験論文で書いた内容に対する想定質問を中心に用意していきましょう。

口答試験の対策には、模擬面接がとても重要です。私も本番までsukiyaki塾の模擬面接を受けましたが、自分だけではわかり難い不備な点を指摘して頂け、本番に向けて大きなステップアップができました。私の経験からも、本番までに模擬面接を最低1回は受けることをオススメします。

あと私は本番ではTPP改正農地法生物多様性条約第10回締約国会議など時事的なことが聞かれることを想定し、それらの経緯と自分の考えをまとめ回答を用意しました。しかし本番では、所属業界の過去数年前に起きたことに関しての知識の有無とそれらに対する考えを中心に聞かれました。個人的な感想ですが口答試験は、仕事に対する普段の姿勢を問う雰囲気でした。技術士試験を受験される方なら大丈夫だと思いますが、仕事に対する普段の姿勢にも注意した方が良いのではと思います。


【二次試験の結果】
経歴及び応用能力
体系的専門知識
技術に対する見識
技術者倫理
技術士制度の認識その他
合否判定合格


【最後に】
 技術士試験を受験した際、特に二次試験は一回で合格するのは厳しいという認識でした。しかし本番は運にも恵まれ順調に進み、無事受験一回目で最終合格できました。

現在は既に技術士登録を済ませ、食品メーカーにて企業内技術士として仕事に取り組んでいます。仕事に対する姿勢が以前にも増して真摯になると共に、社会的な事象に対し技術者としてどう取り組むべきかという視点で見るようになりました。

技術士に限らず国家資格は、国や国民経済の発展に資するのが大きな目的です。これからも食品技術士として食育や機能性食品の開発・商品化を通じて、消費者の健康増進に貢献することを中心に活動していきたいと考えています。







2011.5.25