アバウト170   #7 強敵(承前)

 狂気のような夏の猛暑が去り、夜ごと秋の気配を濃くしてゆく。開け放した扉から涼やかな風が吹き抜け、暗い野外から虫の鳴き声を運んでいた。
 しんとした空間に、ドリブルの音がこだまする。少し前までのにぎやかさが嘘のようだ。自分のほかに誰もいない体育館で、西澤仁美はひとり黙々とシュート練習を繰り返していた。
 ――否。それはただのシュート練習ではなかった。ボールをショットするまでの彼女のドリブルワークは、明らかに“見えない敵”を相手にしており、その姿なき相手に、明らかに攻めあぐねていた。
 西澤をして、カットインに苦労させる相手。それは彼女のこれまでの試合をつぶさに見てきた者なら、誰もがあの伊東真希の立体映像を、彼女の間近に思い浮かべただろう。
 左へ。と見せて右へ。背後に張りつく伊東真希のイメージを軸に、反時計回りに西澤の身体が回り込む――スピンムーブ。放ったボールが、ゴールのネットをくぐる。
(違う……)
(本物が相手なら、いまのはオフェンスファールを喰ってる)
 やはり、本物とやらないとラチがあかない――。どうしようもないとわかっていながら、同じ繰り言を重ねずにはいられなかった。
 伊東は天女(アマジョ)へ行く。確かめたわけではないが、天女に誘われて断るバカはいない。進学の不安もなく、悠々とバスケの練習を続けているだろう。それを思えば、たとえ担任教師から口うるさく言われたところで、部活をやめ受験勉強に専念する気にはなれなかった。ここでブランクを空け、この上さらに伊東に水をあけられるわけにはいかなかった。

「まだ、いたのか」
 女子バスケ部の監督――といっても専任ではなく、クラブの顧問をつとめるこの中学の教師なのだが――が姿を見せた。
「お前は本当に、練習の鬼だな。誉めてやりたいが、教師としては、あまり度が過ぎるのもちょっとな……」
「帰れというなら、帰ります」
「そうじゃない。ちょっと話があってな」
 そう監督は笑顔を見せた。妙に嬉しそうなのが、引っかかった。
「ところで西澤、どこか志望校はあるのか?」
「……まだ決まってません」
 教師なら普通、ここは怒るかあきれるところだ。もう三年の二学期である。そろそろどころでなく、とうに志望校を決め、それ向けて本腰を入れねばならない時期だった。だが、監督のいらえは違った。
「なら、こういうところ、みたいな何か希望はないのか?」
「条件なら、ハッキリしてます」
「ほう」
「寮に入れる女子校。それでバスケが強けりゃ、万々歳です」
 その条件が、ネックなのだった。もちろんそこには、西澤が狙える範囲で、という前提が加わる。彼女の学力はお世辞にも、進学先が選り取りみどりというわけではなかったからだ。
「それはよかった」
 西澤は「は?」という表情で、監督を見た。
「浄善女学院――知ってるな? お前を欲しいといってきた」
「………」
「さっき電話があってな。君津監督から直々にだ」

(やった!)
 どこをどう走ってきたか、わからなかった。
 あのあと監督とどんな話を交わしたかも、よく覚えていない。
 浄善女学院。
 万年二位、と呼ばれている。
 天島高校女子バスケ二強の一角。だが、いまだ優勝経験はない。神室ひきいる天島女子大附属が、常に立ちふさがってきたからである。
 だが、西澤にとって、それは些事に過ぎなかった。
(待ってろ、伊東)
(お前との勝負は、高校に持ち越しだ。借りは必ず返すからな)
(ついでに天女の不敗神話にも、土をつけてやる!)

 ところが――。
「なんで、お前がここにいるんだよ……?」
 晴れて浄善女学院に進学した西澤に、意外な結末が待ち受けていた。
「ニシザーッ!?」
 驚きの顔をみるみる満面の笑みに変えて、伊東真希は西澤をハグした。
浄善(ココ)に来てたんだ!? うれしいッ。あんたとチームメイトなれたらいいのにって、ずっと思ってたんだ!」
「………」
 そのとき西澤が覚えた感覚は、奇妙なむず痒さだった。ずっと伊東をライバル視してきた。だが、当の伊東は、自分など眼中にないのではないか……? そうくすぶり続けた疑念が、彼女の言葉で氷解したからだ。伊東もまた、西澤を味方にしたいと思うほどに認め、意識していた。そのことを素直に嬉しいと自覚するには、西澤の伊東への敵意はあまりにも強すぎたのだが。
「抱きつくなッ、質問に答えろ。天女に行ったんじゃなかったのかよ!?」
「なんで?」
「神室監督と話してただろうが! スカウトされたんじゃなかったのか」
「うん。スカウトされた」
 伊東は答え、こうも付け加えた。
「『君と天羽が組めば、天島ではなく、日本最強のチームになれる』って」
(このヤロー、ぬけぬけと……)
 自慢気なセリフを忌々しく思いながらも、訊かずにはいられなかった。
「だったら、なんで? 県内無敗のトップチームじゃないか」
「だからだよ」
 そう伊東は答えた。
「県内無敗。そんなもともと強いチームに入って、優勝記録を伸ばしたって、つまんないじゃん。それよか、ずっと優勝できなかったこのチームを初優勝に導く。そのほうが、ずっとワクワクすると思わない?」

「お前、本物のバカだな」
 しばしの沈黙ののち、そう口にした。
「うん。ワタシ、バカだよ――」
 伊東は明るく応えた。
「バスケバカ」
 山に籠もって、片方の眉だけ剃ってろ。そう言ったが、通じなかった。『空手バカ一代』は知らないらしかった。
「いっしょにバスケの天下取ろうよ。あんたといっしょなら、なにも怖いもんなんてないよ、ニシザー!」
「ひとつ、言っとくぞ」
 耳元で呟く。ん? と伊東がさらに耳を近付けると、大声で怒鳴った。
「ボクはお前の敵だッ。同じチームなら、丁度いい。お前の持ってるもん、ぜーんぶッ盗んで、追い越してやる。覚悟しとけッ。それから、ボクの名前は西澤だッッッ」

 そう、怖いものなんてなかった。
「ウォオオオオオッ」
 ゲームセットのブザーを聞いた瞬間、沸き上がる衝動のままに、西澤は吼えた。
 その年の冬、西澤ら浄善の一年生チームは、天島新人杯(ルーキーズカップ)で優勝を飾り、天女に県内で初の黒星をつけたのだった。
「ニシザーッ」
 だが、駆け寄る伊東の手のひらを、西澤は拒否した。彼女の顔を見た途端、さきほどのまでの高揚が、嘘のように醒めてしまっていた。
「なによー、握手ははたくくせに、ハイタッチはしないの!?」
「浮かれんなよ」
「自分だって、ウオーつってたくせにぃ」
「こんなの、ただの通過点だろ。天女っつったとろで、アイツがいねーんだからな」
 二階観客席の一角に眼をやる。天女バスケ部の一団がそこに座していた。ベンチ入りできない一年だけでなく、三年に進級を控えた二年生も全員、顔を揃えている。一年生だけのローカル大会とはいえ、初めての県内公式戦の敗北に、重い沈黙が支配していた。
 そして、その中央にいるのが、天島ナンバーワンプレーヤーの呼び声高い、天女の絶対的エース・天羽七海恵(あもえ)であった。
「それもそうだね」
 同意した伊東もまた、同じ人物をその眼に捕らえていた。
(いま、どんな表情(かお)してる? 女王サマよ)
“天島の女王”と呼ばれる彼女はしかし、照明の逆光でシルエットになり、顔もよく見えなかった。怒っているのか、無表情か、それとも笑っているのか。そのいずれもありそうな気がした。
(面は見えなくても、目線はわかる。あんたはいま、伊東(コイツ)しか見ていないだろう。でも、みてろ――)
 きびすを返して、試合終了の整列に向かう。「あ、待ってよお」と伊東があとを追った。
(いずれあんたも、ボクを無視できなくなる。振り向かせてみせる)


「なーに人の顔ジロジロ眺めて、ニヤニヤしてんだよ?」
「だって、とっても嬉しそうなんですもの」
 そりゃそうさ。と西澤は富山に応えた。
「なんたって、あの伊東(バカ)がいねーんだからな。並み居る関東の強豪をたいらげたって、聞こえてくる評判ときたら、どいつもこいつも伊東、伊東だもんよ!」
「しょうがないわよ。あのコはフォワード、あなたはセンター。見るひとの眼には、地味に映るじゃなくて?」
「だからさ。今日はフォワードで、ガンガン攻めまくってやる。正直、ゴールのお守りは性に合わねえ。伊東だけじゃない、浄善にはこの西澤仁美さまがいるってことを関東中に知らしめてやるのさ。神奈川トップを料理してよ」

 天島新人杯を制した浄善一年チームは、その勢いのままに、次々と関東の強豪チームと練習試合を戦い、撃破していった。

・第一戦 VS聖白翼女子学園(千葉3位) 105対62
・第二戦 VSつくばハイスクール(茨城2位) 86対53
・第三戦 VS日光学院(栃木3位) 82対44
・第四戦 VS春日部大附属(埼玉3位) 97対77
・第五戦 VS城西家政高校(東京4位) 85対60

 その最終戦、総仕上げの相手に選んだのが、神奈川・朔方桜木商業である。

「自信家なのね。私は気が重いわ。実際、伊東(あのコ)の穴は大きいわよ。しかも相手は、神奈川一位」
「おめーが心配性なんだよ、トミー」
 赤城はもういない。出発前、秋コーチに言った同じことを富山にリピートした。
「それでも、一位は一位だ。手頃でしかもオイシイ相手さ。あの伊東(バカ)抜きでもな」
「どうかしら? 赤城の陰に隠れて、これまで出番のなかった凄い後継者がいるかもよ。そうは考えられなくて?」
「安部先輩と同じことを言うんだな」
 薄く笑みを浮かべ、だったらボクも同じことを言うまでさ、と言い返す。
「そう願ってるよ」

 一行を乗せたバスは銀河橋(ギャラクシーブリッジ)で千葉県に渡り、富津館山道路を北上、木更津に入り、東京湾アクアラインへと差し掛かった。西澤の頭に浮かんだ言葉を代弁すれば、それはまさにニッポンのムダ満喫ツアーそのものだった。
「アクアブリッジだーッ」
 そんな西澤の思いをよそに、また加地姉妹が喚声をあげた。
「うっせーぞ、チビども。遠足じゃないんだぞ」
「なんだよッ、うるさいのはお前だッ、ニシザーッ」
「そうだそうだ。ニシザーのくせに」
「おめーら……」
 凶悪な笑みを浮かべて、シートから立ち上がった。
「どうでも、痛い目に会いたいらしいな……」
 伊東が勝手にそう呼んだ「ニシザー」の愛称(?)は、本人の意思を無視し、すっかり浄善バスケ部に定着してしまっていた。
「いいじゃないの。私は好きよ、そのニックネーム」
 富山の助け船が、また双子を救った。
「お寝坊さんの穴は、あなたがしっかり埋めてね。頼りにしてるわよ、ニシザー
 ニッコリと微笑む富山を横目で見ながら、不機嫌な顔でドスンとシートに腰を下ろした。
(フンッ)
 アクアラインの木更津側、アクアブリッジをバスは走る。中間点のパーキングエリア、海ほたるからは海底トンネルで東京湾を横断する。それを抜ければ川崎――神奈川県である。
 天島最強の一年生チームが、これから向かう県で最強のチームを討つべく、東京湾をひた走る。神奈川へ。
 ――神奈川へ。

 体育館の壁に掛かった時計の針が、バスの出発から1時間が経過したことを示していた。
 それに気を取られていた安部夏陽は、珍しくパスのボールをファンブルした。ボールは相手チームである、相羽・田渕ペアに渡った。
「ちょっと――」
 ペアの相棒である須田恵子がそれを咎めた。
「しっかりしてよ。負けたほうが、ランチ奢りなんだからね」
「ごめん……」
「伊東のことなら、こっちが気を揉んだってしょうがないでしょ。間に合わなければ、あのコ達でどうにかするだけよ。それも、いい経験になるんじゃない?」
 須田が言うように、そこまで割り切ることは、安部にはできなかった。新人杯、練習試合を通じて、ここまで一年チームは無敗を守っている。ここでつまずけば、今後に響きかねない。しかも、対戦相手は赤城が去ったとはいえ、あの朔商である。
「おケイの言うとおりよ。心配はわかるけど、ここで私たちがあれこれ悩んだって、なんの手助けもできないんだし」
「それはそうだけど……」
「アベっちはチームのこと、気にし過ぎだよ。キャプテンだって、こんなに悠揚迫らず、デーンと構えてるのにさ」
「その言い方、なーんかトゲを感じるんですけど?」
 キャプテンの相羽は、半眼で田渕を睨んだ。
「ひとのことを気にする余裕はないわ。私は」
 須田の言葉は、そんなことを気にする余裕があるのか? と言っているように、安部には聞こえた。それは彼女の胸をチクリと突き刺した。
「学年が上がれば、ここにいる四人全員がレギュラーで残ることはまずないわよ。真っ先に外されるのは、私でしょうけど」
「大丈夫だって、おケイ。おケイはディフェンス巧いんだから、どっかで出番はあるって」
「ちょっと! 控えが前提!? 慰めにもなってないじゃない!」
 心ない田渕のフォローに、須田が噛みついた。
「私だって、ニシザーとセンターを争うかと思うと憂鬱よ。因果は巡るよね」
 相羽は中学生離れした長身を買われて、田渕とともにスカウトで入学した特待生である。先輩を押しのけ、これも田渕とともに一年でレギュラー入りを果たしている。
「それをいうなら、私だって。西澤はオールランドだもの。フォワードで入ってくれば、弾かれるのは私よ」
「おいらは大丈夫だかんね」
 田渕がエッヘン、というように胸を反らせてうそぶいた。
「あのバカ弟子どもがおいらに勝とうなんて、十年早いッ」
 バカ弟子どもとは言うまでもなく、あの加地あい・のぞみ姉妹のことである。
「ひとりずつならね」
 須田が先ほどの逆襲に転じた。
「あいつらは二人そろえば三人前だからね。ガードが二人コートに入れば、あんたがこうでしょ」
 須田は田渕に向けて、中指を親指から弾く仕草をしてみせた。
「やだーッ。イヤなこと言うなよおッ」
 両手でこめかみを挟んで、田渕が悲鳴をあげた。
「後輩が頼もしいのは嬉しいけど、頼もし過ぎるのも悩みの種よね」
「強くなればいいのよ、私たちが」
 冗談めかした相羽の言葉に、安部がいかにも彼女らしく、生真面目に応えた。
「そのために、いまだって練習してる。勝負の世界に、先輩も後輩もない。試合に出たければ、それだけの実力を身につけるしかないんだもの」
「だったら、遅刻魔のこと気にして、ミスすんのはやめな」
 須田がそう言って、安部の頭を小突いた。
「だから、それはゴメーン」
 四人の笑い声が体育館にはじけた。辛辣にやり合ってはいても、彼女たちは心底互いを認め、信頼し合う仲間なのだった。

 2オン2のゲームが再開した。強豪校のスタメンらしい、激しく、巧みな攻防が繰り広げられる。
「自分のことはともかく、あいつらのことなら、私はなにも心配してない」
 ゲーム再開前、そう須田は言った。
「朔商は生やさしい相手じゃないけど、あいつらなら、きっとなんとかする。少なくとも、傷になるような惨めな負け方はしない。伊東が間に合わなかったとしても」
 彼女は安部の憂慮を察していた。クールなようでいて、そんな繊細さも持ち合わせているのだった。
 須田恵子、セカンドガード。ディフェンス職人と呼ばれる、守りのスペシャリスト。
「ホント。どこへやっても、負ける気がしないよね」
 田渕万里、ポイントガード。通称、PGマリー。パスワーク、ゲームメイクだけでなく、小柄さを利したインサイドアタックにも定評がある。ポイントガードとしては、天島で一・ニを争う、小さな司令塔。
「じゃ、負ける気がしない後輩たちに負けないように、私たちも練習を続けましょうか!」
 相羽早織、センター。身長178センチを誇る、攻守の要。厳格な安部が父親役なら、彼女はおおらかな母親役といえた。メンバーの信望厚い、浄善のキャプテン。
「エースからは、なにもないの?」
 最後に相羽からコメントを求められて、安部は苦笑した。
「イヤミで言ってるの?」
 安部夏陽、フォワード。
「私がいつエースだったっていうの? あいつが浄善(ここ)に来たときから、うちのエースはあいつじゃないの。その自覚に欠けてるのが、致命的な問題なんだけどね!」
 基本に忠実なプレイスタイルは、性格そのままだ。教科書通りとも揶揄されるが、彼女を手本にせよという指導者は多い。攻守にわたり、あらゆる能力をバランスよく具え、実戦でも好不調のムラがない。むろんそれは、彼女のひたむきな努力の結晶である。伊東や天女の天羽のようなスター性には欠けるが、プレーヤーとしての彼女の堅実さは、少なからぬ専門家から評価されている。

 この四人に伊東真希を加えた五名が、いま現在の浄善女学院のスターティングメンバーである。
 彼女たち現二年生が、三年に上がる来年。来年こそは、常勝・天女から王座を奪い、浄善が万年二位の序列を覆すだろうと言われている。新人杯で宿敵を倒し、栄冠を勝ち取った、あの頼もしいルーキーたちを得て。

「おケイッ」
 須田からのパスが、コートをバウンドして安部に渡る。間髪入れず、ゴールを突く。伊東のことは、もう頭から消えた。
 させじと、相羽がそのコースを阻む。安部はバックロールでターンし、相羽のブロックをかわす。
(!)
 天女を超え、県優勝を果たす――。高校最後の年を迎える彼女にとり、それは目標ではなく、絶対の使命であった。安部はさらにその先の、大いなるいただきを見据えていた。
 日本の頂点だって、獲ってみせる――。その栄光を掴みとらんとするように、天に向かって伸ばした手がシュートを放ち、金属(てつ)のリングにさがるネットを揺らした。

 眠り姫の睡眠は深い。だが、目覚めは一瞬にして訪れる。それは野生動物さながらだ。困ったことに、人間社会の時間の枠組みにはいっさい囚われない、もとい適応しないのだったが。
 パチリ、と閉じていた瞼を開けると、ガバッ、とベッドから身を起こす。枕元に置いていた目覚ましがなくなっていることに気付き、部屋を見渡す。ちなみに、目覚ましはそれ一個だけではない。五本の指では足りない目覚ましのことごとくが、もとあった位置から移動、もとい四散していた。あちこちに散らばった、目覚ましのひとつを恐る恐る手に取り、時計盤をおもてに向ける。
『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ』
 轟き渡る悲鳴が、彼女の住むマンションを建物丸ごと揺るがした。
「また、やってもうた……」
 頭を抱える。ひと房の髪がピン、と重力に逆らい、寝癖で天を向いていた。
 伊東真希、パワーフォワード。身長、166センチ。
 一年生チームだけではない、浄善女学院の、これでも、エースプレーヤー。
「どうしよ……」



第1稿 2007.11.11