ダブルスコアTO   20

 シートに腰を下ろし、コインを投入する。派手なオープニングの最後に「SLAM DUNK 1ON1」のタイトルロゴが、スクリーンに大写しにされる。操作方法、ルール説明をスキップする。
「ナッハッハッハ。この天才に挑戦するとは、いい度胸だ。かかって――」
 最初の敵、赤い髪の丈高い男の科白を、彼女は最後まで言わせておかなかった。左右二本のレバーと、その突端のボタン、足下のペダルを操作し、ドリブルで突破する。レイアップシュートが決まる映像が、スクリーンに映し出される。
「ああーッ、ずるいーッ」
 赤い髪の丈高い男が、情けない顔で悲鳴を上げた。
 1本取れば、次の敵と対戦する。プレイヤーはオフェンスとして、敵のディフェンスをかわし、ゴールが決まれば勝ち。止められれば負けとなる。トータルの負け数はカウントされないが、一人の敵から3本続けて負ければ、そこでゲームオーバーとなる。こうして、合計20名の敵と対戦する。しかし、全員を倒すプレイヤーは稀である。
 彼女は続く、福田、木暮、魚住、赤木を次々とストレート勝ちで進む。このあたりは、初心者でも勝てるレベルである。

 16人目の流川から勝ちを取った頃から、背後にギャラリーが群がり始めた。続く、牧、仙道からゴールを奪うと、その度に歓声が上がった。
 19人目の相手が、スクリーンに登場した。
「ここまで、よく来たピョン。相手をしてやるピョン」
 19人目の相手が、スクリーン上で言った。
「すげえ。深津まで来やがったよ」
「これに勝ったら、次はオーラスの沢北だぜ? 俺、見たことねーよ。沢北なんて」
 だが、深津に2本を止められてしまう。もう、後がなかった。だが、牧、仙道からも、3本目でゴールを奪っている。ギャラリーが息を呑む。
 3本目、左のドリブルから右にドリブルチェンジ。――突破!
 歓声を上げかけたギャラリーの声は、落胆の溜め息に変わった。一瞬、抜いたかに見えたプレーは、背後から深津にボールを叩かれることによって、負けに終わったからである。
「まだまだだピョン」
 スクリーン上の深津が、無表情に言った。

 ふうっ、と天井を仰ぎ、彼女が大きく息をついた。長いサラサラの髪が、だらりと垂れ下がる。彼女の面が、ギャラリーに晒された瞬間でもあった。
 一人の少年が彼女に近づいた。ここを根城にするゲーマーらしかった。
「君、見ない顔だね。どう、良かったら、僕と対戦してもらえないかな」
 ゲームにかこつけた、ナンパというわけだった。
「悪いけど――」
 彼の顔に一瞥もくれず、無愛想に応じた。
「いまそういう気分じゃないの」
 少年の視線を背中に浴びて、チカはゲームセンターを後にすると、夜の繁華街に消えた。


 マンションに帰宅した頃には、深更を過ぎていた。だが、それを咎める家族はいない。ロックを解き、スチールドアを開くと、洞窟のような暗闇がチカを迎えた。
 明かりを灯し、リビングに入ると、電話の留守録ランプが点滅していた。帰りに買ったコンビニ弁当をレンジで温めながら、留守電を聞く。母親からだった。こんな遅くまで、どこへ行っているのか。勉強はしているのか。ちゃんとした食事は摂っているのか。母親らしい心配事とお小言を並べていた。話がしたいから、連絡をしなさいと言って、メッセージは切れた。
 母親はいま、シンガポールに単身赴任した父親の元に行っている。兄弟はいない。母親の娘への心配は、全て当たっていた。勉強など、ろくにしていないのはもちろんのこと、空腹になれば食事はするが、ちゃんとしたものとはお世辞にも言えなかった。
 ぶらぶらと深夜まで繁華街をうろつき、終電で戻っては、終夜営業のビデオショップでビデオを借り、漫然と朝まで眺める。眠気の訪れとともに、夕刻まで眠る。そして、シャワーを浴び、また、街へと出掛ける。完全に昼夜が逆転していた。そんな自堕落で、虚ろな日々。
 母親がホッと胸を撫で下ろすとすれば、少なくとも、男遊びには興味を持たなかったことだろう。だが、それだけに、チカは徐々に、夜の繁華街からも、居場所を失いつつあった。また、ゲーセンを変えねばならない。夜の街で、独りひっそりとゲームに興じるには、チカの容貌はあまりにも目立ちすぎた。脂ぎった少年達が放っておかない。どんなに冷たくあしらっても、しつこくつきまとって離れないのだ。

 ゲームなど、どうでもよかった。持て余した時間を潰しているだけだ。ヴァーチャルなアーケードゲームのバスケなど、なんの慰めにもならかった。かえって、自分の《渇き》を自覚させるだけだった。
 自室に戻ると、わかっているのに、ついボールを求めてしまう。ボールはない。秋月リサというバスケ部の女に、やってしまった。スポーツ店に行き、何度新しく買おうと思ったか知れない。だがその度に、意地がそれを赦さなかった。
 ボールに触れる。地面にドリブルする。ボードにショートを撃つ。ただそれだけのことが、こんなにも自分の肉体的な生理として結びついていることを、チカは初めて知った。
 バスケはやめたと思っていた。やめられると思っていた。そうではなかった。禁煙を課したヘビースモーカーにも似た、わななくような内圧の高まりに、チカの心身は身もだえしていた。
 その想いは、もはや誤魔化し切れない強さで、チカの胸を支配していた。
 ――バスケが、やりたい。

  21

 だからといって。
(あんな大見得切っといて、いまさら入れてくれとは言えないよねえ)
 ベランダの手すりにもたれ、自嘲的に口元を歪めた。八月の夜気は、ムッとするような生ぬるさだったが、それでも風が吹くと心地よかった。
 リサは気にすまい。それどころか、その心変わりを喜び、歓迎してくれるだろう。問題は、そんなことではなかった。
(バスケ部に入って、どうする――?)
 一生懸命頑張って、いい汗を流して。勝ち負けの結果より、努力をすることが素晴らしい。君達は、とても輝いているよ。――バカバカしい。
 勝たなければ、勝てなければ、意味はないのだ。そして、勝てないと思い知らされた。だから、やめたのではなかったか。
(どうするもこうするもねえよ。追いかけりゃいいんだよ。バイクだってガス欠になるかもしれねーし、自分だってバイクをゲットできるかもしれねー。やってみなきゃ、わかんねーじゃねえか。戦わなきゃ、勝てねーんだよ!!)
 リサの言葉が脳裏に甦る。
(ウサギとカメってわけ? 生憎と、あいつは自信家ではあっても、慢心して練習をサボったりするヤツじゃないのよ。イヤんなるぐらいクソ真面目で、努力家で、練習の虫なんだから)
(三年よ。私は、三年間追い続けた。それでも、勝てなかった。やってみなきゃ、わかんないって? やったわよ、私は! それで挫折したからって、なんでアンタなんかに、エラソーにお説教されなきゃなんないのよ。アンタなんか、私よりずっとずっとヘタクソのくせに!)
 ふいに突っ伏すように、額を手すりに擦りつける。
(なにやってんだろ、私。ひとりでムキになって。バッカみたい……)

 また、同じ夢を見ている。
 夢を見ながら、チカはそう自覚している。
 スープのような霧――のようなものを掻き分けながら、チカは前に進もうとする。プールの水の中を歩くような、鬱陶しい抵抗感が全身を絡め、チカの前進を阻む。
「なにグズグズしてるの。置いてっちゃうよ」
 前方から、安部夏陽の声が届く。遠く霧の向こう側に、かすかに彼女の姿が見える。
 くたくたになりながら、必死に彼女の背中を追う。気ばかり焦るが、身体は思うにまかせない。のろのろとした、自らの動きがもどかしい。

 息も絶え絶えに、ゴールに辿り着く。濃密な霧のようなものは、ウソのように消え去っていた。
「遅かったね」
 バイクスーツに身を固めた夏陽が、カウルに覆われたレーシング仕様のビッグバイクに跨っていた。キックペダルを踏み込む。重い排気音が轟く。
「あなたには、ソレを用意しといたから。あなたには、お似合いよ。ソレぐらいがね」
 チカはそれを見た。サビついたオンボロ自転車が、地面に転がっていた。
「それじゃ、行くね。もう、会うこともないだろうけど」
 ヘルメットをかぶりながら、夏陽はそう告げた。
(待って――)
 声にならなかった。四つん這いの姿勢で、手を伸ばす。
(置いていかないで)
 エンジン音と、排ガスの匂いを残して、夏陽の駆るバイクが走り去った。
 両膝をつき、呆然と見送るチカの頭上で、鐘が鳴っていた。
 天上の鐘が、降り注ぐ。それはまるで、自らのバスケ人生の終焉を告げる、葬送の鐘であるかのように、チカには思えた。その不吉な鐘の音は、チカの頭上で、いつまでも鳴りやむことがなかった。

 鐘の音を模した電子の呼び鈴が、チカを悪夢から現実に呼び戻した。
「はーい」
 寝起きの嗄れ声で返事をする。
「特急便ですう。お荷物、お届けに上がりましたあ」
 下着だけの下半身に、急いでジャージを履く。覚束ない足取りで、玄関まで歩き、扉を開く。愛想の良い笑顔の、宅配業の制服姿の青年がいた。
 伝票にサインし、配達物を受け取る。「どうも」と言って、扉を閉じる。
 平べったい配達物の差出人欄には、「秋月リサ」の名前があった。

 彼女から電話があったのは、一昨日の夜のことだった。
「お前ん家、SCA(スカ)観れるか?」
 藪から棒に、リサは問うた。
「入ってないよ。なんでよ?」
「そうか。わかった」
「こっちは訳わかんないよ。なんだってのよ?」
「近々、お前ん家に荷物が届く」
 リサは取り合わずに言った。
「そいつを観ろ。用はそれだけだ。じゃな」
 それだけ言うと、一方的に電話は切れた。
「なんだってえのよ……」
 ムッと、そう声に出して呟いた。

 そのことを思い出しながら、チカは封を解いた。一枚のビデオディスクに、便箋が添えられていた。殴り書きで、こう書かれていた。
「これでも拝め この負け犬!」

  22

〈バスケットボールファンの皆さま、ご機嫌いかがでしょうか。SCAバスケットアワー、今回はインターハイ準々決勝、浄善女学院対桃花学園の試合の模様をお送りします。県予選二位出場の浄善が、王者・桃花に挑みます。実況はおなじみ、K・南城です〉
〈そして解説に、素晴らしいゲストをお迎えしました。WJBL(女子日本リーグ)・ジャパンエレジー、また、全日本でも活躍され、先日、惜しまれつつ引退を表明されました、源三千世さんです。どうぞ、よろしくお願いします〉
〈よろしくお願いします。ユウコ、観てるゥ?〉
〈……なかなか、お茶目なところのある源さんですが、浄善女学院の卒業生でもあり、君津監督が就任した、その最初のスタメンでもありました。後輩達が迎えるこの一戦、何を期待されますか〉
〈ズバリ、勝利! そのつもりで戦っているんだということを見せてもらいたいですね。胸を借りるなんてショッパいことは、思わないでほしい。上杉のいる桃花は、ハンパじゃなく強いですけど、上杉をどう抑えるかが、勝敗のカギだと思います〉
〈先輩から、痛烈な檄が飛ばされました。さて、その日本高校女子のエースと呼んでもいい、キャンプテン上杉純を擁する桃花学園に、今年とんでもない一年が加わりました〉
〈そうですね〉
〈この放送をご覧の方で、御存知ない人はいないでしょう。中国人留学生・揚美華(ヤンメイファ)、身長実に198センチ! 日本高校女子バスケ界で、現在最長身。スーパー・ポイントガード、上杉がいるだけで大変なこのチームが、さらにゴール下をタフにしました〉
〈あのタッパは反則ですよ、反則。ファウル取りたいですね。あれだけデカい選手は、国外にも滅多にいませんから、ええ経験になるんとちゃいますか〉
〈その超高校級の上杉、ヤンに対する、浄善のポイントガードとセンター。田渕真里、相羽早織、どちらも一年生です〉
〈荷が重いマッチアップ、ではないと思います。浄善の正ポジションを獲った二人ですから。ビビらんとブツかって行け、と言いたいですね〉
〈確かにヤンも同じ一年生、そして上杉も、スタメン入りしたのは一年ですからね。さあ、メンバー紹介のアナウンスが始まりました。両チームが、いまセンターラインに整列します〉

〈……パスがヤンに通った――。ダァァァァァンクッ。豪快〜ッ。揚美華、この試合、初めてのダンクシュートを決めたアアアッ。あなたはホントに女子高校生ですかあッ!?〉
「凄えな」
 チカがそのビデオを視る、二日前の夜、長部京子は口笛を吹いて、そう感嘆した。
「でも、怖くねえ」
 しかし、こうも言った。
「動きがノロぇ。ディフェンスで止めんのはしんどいが、逆にこっちがオフェンスに回りゃ、どうとでもあしらえら。ほら見ろ、あの相羽っての。――身長は、私とおんなじぐらいか。引っ掻き回して、ものともしてねーよ」
 相羽早織が揚美華の正面からサイドステップでかわし、ジャンプシュートを決めた。
「2メートル近い身長と、百キロはある体重を支えてるからね」
 普通に生活するだけでも重労働だ。と、リサはコメントした。

〈今度は上杉、3ポイントーッ。――決めたーッ。中を固めれば、今度は外から射抜く。超司令塔・上杉、絶好調! 非の打ち所がありません〉
「それよか、こいつだよ、こいつ。この上杉っての。センター以外なら、どこでもやれんじゃねえか?」
「ゲームメイキングの名人だけど、ズバ抜けたスコアラーでもある。外から撃ってヨシ、自ら斬り込んでヨシ。ポイントガードやってる女子で、この人に憧れないヤツはいないよ」
「相手の、一年の田渕ってのはどうよ。お前の眼から見て」
「いい動きしてる。巧いよ。でも、この人の前だと、霞んじゃうね」

〈……強引にドライブイン。決めたーッ。これで30点目ーッ。揚美華、エンジン全開ッ。もう誰にも止められないッ。相羽を吹っ飛ばしたあッ。……ディフェンスファウルを取られた相羽を、吹っ飛ばしましたよ。源さん〉
〈ちょっと、手がつけられないですね。彼女も4ファウルなんですが、そんな怖れ気は全くないですね〉
〈退場が怖くない。控え選手でも負けない。そういう信頼、自信の表れでしょうか?〉
〈選手層が、ホントに厚いですからね。桃花は。よそならエースを張れる選手が、控えにゴロゴロいますからね。スタメンは高校オールスターと言っていいぐらいですよ〉
〈確かに、国体の愛知県代表チームが、丸ごと桃花学園になってしまいますからねえ。しかし、それにしては第4Q(クォーター)残り7分を切って、これで20点差をつけて、まだ一人もチェンジしませんが?〉
〈それが桜井監督のやり方なんでしょう。流れがあるうちは、徹底的に叩く。7分で20点差なら、まだ逆転の目がないとは言い切れませんからね〉
〈さて、ヤンがフリースローも決めました。これで点差は21点。おっと、ここで君津監督が指示を出しましたよ。選手交代のようです〉

「うそ……」
 唖然とリサが呟いた。
「ねえ、ビデオない? 空のビデオ。お金払うから!」
「やるよ、ビデオぐらい。そんな慌てんなって。また最初から観れんだからさ」
「あ……そっか」
 SCAは決まった時間にプログラムを流すタイプのテレビではない。放映期間中なら、好きな時間に何度でも番組を見直すことができるケーブル局である。そのことを長部は指摘したのだ。

 彼女のもとに届いたそれは、こうしてビデオディスクに収められた。そして、その同じ場面で、チカもまた、大きく眼を見開いた。

〈フォワード、野口に替えて、一年生、安部夏陽を投入します! この君津采配、これは一体どういうことなんでしょう。君津監督の隠し玉、秘密兵器なんでしょうか?〉
〈ちょっと考えにくいですね。それなら、とっくに使ってるでしょうし……〉
〈それとも、ちょっと言いにくいですが、勝負あったということで、ベンチ要員を出させるというような……〉
〈それなら、控えの三年を出すでしょう。それに、そんなことする人ちゃいますからね。君津監督は。ボロ負けしてようが、1点でも多く点を獲り、相手に獲らせないことしか考えてない人ですから。……たぶん、全国という舞台を、経験させときたいんでしょうね。彼女に〉
〈手元の資料によりますと、インターハイ予選・本戦を通じて、これが公式戦初起用、デビュー戦ということになります。インターハイ準々決勝、相手は天下の桃花学園。大変なデビューですね〉
〈それだけ、期待を掛けてるんでしょう。ひょっとすると、逆転狙いの大バクチも兼ねてるのかもしれませんね〉

〈揚美華、ファウルです! 安部の積極果敢な攻めが、ヤンのファウルを誘いました。これで5ファウル、退場です。足を踏み鳴らして悔しがります〉
〈14点差まで縮めてますからねえ。これでわからなくなりましたよ〉

〈相羽、リバウンド獲ったアッ、田渕にパス。田渕ソッコーッ。しかし、上杉が止めます。上杉、戻りが速い。田渕のワンマン速攻を阻んだ。田渕バックパス。安部に通った、フリーだぞ。撃った。決めたアアアッ。残り時間3分、これで10点差〜ッ。お聞きください、割れんばかりのナツヒ・コール! 安部の投入で、完全に流れが変わりました。相羽が獲り、田渕が運び、そして、安部が決めました。驚くなかれ、このセンター、ガード、フォワードの三名は、みな一年生なのです!〉
〈桃花が初めてタイムアウト取りましたよ。まあ、当然ですね〉

〈さて、試合再開ですが、ここで桃花が選手を交代するようです。……ちょっと待ってください。交代は上杉です! なんと、上杉を下げます。上杉に代わって、一年生、桜井まどか選手がコートに入ります。手元の資料によりますと、彼女もこれが公式デビュー戦になります。
 突き離してリードの局面ならわかりますが、21点あったポイント差を10点まで詰められています。ピンチと言ってもいいこの状況で、チームの大黒柱である上杉を下げるというのは、どういうことなんでしょうか?〉
〈こっちの一年は、本当に隠し玉、秘密兵器なんでしょう。上杉を超えるポイントガード、ということなんじゃないですか。桜井監督は、そう評価してるんでしょう。自分の娘に対する、贔屓目でなければね〉

  23

〈ここでブザー。試合終了〜ッ〉
〈安部が泣いています。相羽、田渕が安部を抱き締めます。一年生トリオが、互いに抱き合います。惜しかった。しかし、よく頑張りました。悔しいでしょう。ですが、彼女達には、まだまだ先があります!
 源さん。敗れはしましたが、相羽、田渕、そして、安部。三人ともまだ一年生ですよ。本ッ当に将来が楽しみなチームです。健闘した後輩達に、なにかひと言、お願いします〉
〈本当によく頑張りました。逞しい後輩を持てたことを、先輩として誇りに思います。桜井選手については、計算外の伏兵でした。今回は、彼女にしてやられました。でも逆に言えば、その切り札を出させるところまで、上杉率いる桃花を追い詰めた浄善、可愛い後輩達に、拍手を送りたいですね〉
〈そうですね。おそらく、天羽も、この会場のどこかで、彼女のプレイを眼に焼き付けたことでしょう。それだけでも、天島代表チームとしての、大きな戦果と言っていいでしょう〉

〈……ヒーローインタビューと、監督インタビューをお送りしました。
 結果は、69対89。一度は10点差まで詰め寄りましたが、桃花が再び20点差に突き離しました。恐るべし、王者・桃花学園。そして恐るべし、未知の新人、桜井まどか!
 桜井監督の娘ということで、入学当初から話題にはなりましたが、それほど注目された選手ではありませんでした。揚美華を除けば、ただひとり一年でベンチ入りしたことについても、親の身贔屓という風評があったほどなんですが、とんでもない。実にとんでもない新人が現れましたね〉
〈本当に、よくいままで隠してたもんですね。天羽とヤンの新人王レースに、桜井がラスト3分で割って入りましたね〉
〈さて、これでベスト4、四校が全てが出揃いました。残念ながら、浄善はここで敗れてしまいましたが、先に行われた準々決勝・第一試合では、天島女子大附属が見事、準決勝に駒を進めました。桃花と戦うには、決勝まで行かねばなりませんが、天羽と桜井の直接対決。これは見てみたいと思いませんか?〉
〈勝負ですから、どう転ぶかは判りませんが、実力で言えば、決勝に進む最有力候補が、その二校だと思います。実現すれば、注目のカードですね〉
〈ぜひその一戦を、実況したいですね! そのためにも、明日の準決勝、天女には何としても勝ってもらいたい! 源さん、本日はどうもありがとうございました〉
〈ありがとうございました〉
〈次回はインターハイ準決勝、天島女子大附属高校対熊本代表・球磨農業高校の試合の模様をお送りします。またすぐに、お目にかかります。ごきげんよう〉

 テレビの画面がブルー一色に変わる。
 チカはビデオのリモコンを操作し、ビデオを逆送りにサーチする。いままでの映像が、逆さかつ高速に展開されてゆく。
 再び、リモコンのボタンを押す。
〈……おっと、ここで君津監督が指示を出しましたよ。選手交代のようです。フォワード、野口に替えて、一年生、安部夏陽を投入します!〉

〈揚美華、ファウルです! 安部の積極果敢な攻めが、ヤンのファウルを誘いました。これで5ファウル、退場です。足を踏み鳴らして悔しがります〉

〈……安部に通った、フリーだぞ。撃った。決めたアアアッ。残り時間3分、これで10点差〜ッ。お聞きください、割れんばかりのナツヒ・コール!〉

〈安部が泣いています。相羽、田渕が安部を抱き締めます。一年生トリオが、互いに抱き合います。惜しかった。しかし、よく頑張りました。悔しいでしょう。ですが、彼女達には、まだまだ先があります!〉

 チカは再び、ビデオを逆送りに戻す。さっきと同じ所まで。ラスト7分。安部の投入から、試合の終了まで。
 その7分を、半世紀前の壊れたレコードのように、チカは飽くことなく繰り返した。繰り返し繰り返し、チカはその7分を視続けた。
 日が暮れ、ブラウン管の発する光が、部屋を明滅させても、チカは明かりを点けることさえせず、それを視続けた。何度も、何度も……。

続く 24〜EPILOGUE-2

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第1稿 2003.01.28
第2稿 2003.01.30
第3稿 2003.02.15