4.特殊的不法行為

最終更新日2004/08/17 08:33

 2004/08/17 08:33の加筆・訂正箇所につきましては、便宜上、「赤字」で、それ以前の加筆訂正につきましては「青字」で表記します。

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c.工作物責任

【参考条文】 

 民法第717条〔土地の工作物の占有者・所有者の責任〕
@土地ノ工作物ノ設置又ハ保存ニ瑕疵アルニ因リテ他人ニ損害ヲ生シタルトキハ其工作物ノ占有者ハ被害者ニ対シテ損害賠償ノ責ニ任ス但占有者カ損害ノ発生ヲ防止スルニ必要ナル注意ヲ為シタルトキハ其損害ハ所有者之ヲ賠償スルコトヲ要ス
A前項ノ規定ハ竹木ノ栽植又ハ支持ニ瑕疵アル場合ニ之ヲ準用ス
B前二項ノ場合ニ於テ他ニ損害ノ原因ニ付キ其責ニ任スヘキ者アルトキハ占有者又ハ所有者ハ之ニ対シテ求償権ヲ行使スルコトヲ得

一、本条の趣旨

 本条は、土地の工作物の設置または保存に瑕疵があり、その瑕疵によって他人に損害を生じさせた場合に、その工作物の占有者および所有者に特殊の責任を課したものである。すなわち、民法は、加害原因となった瑕疵を誰がつくり出したかに関わりなく、第一次的に占有者に、そして占有者が損害の発生を防止するに必要な措置を講じたことを証明した場合には、所有者に責任があると規定しているのである。国家賠償法2条は公の営造物の設置または管理の瑕疵につき国または地方自治体の無過失責任を定めている。

ニ、工作物責任の性質

 この工作物責任は、一般的不法行為と異なり、占有者・所有者の故意・過失が加害の事実そのものについて存在することを要件としていません(当たり前といえば、当たり前です。風により塀が倒れてきて通行人が怪我をした場合を考えてみますと、加害の事実とは塀の倒れたことですから、その塀の倒れたという事実に故意・過失などが考えられるはずがないのです)。しかし、占有者においては、工作物が他人に損害を与えないように防止する措置を講ずることにつき、過失が存在することを要件とし、一般的不法行為においては被害者側が加害者の過失の存在を証明しなければならないのですが、工作物責任においては、占有者に過失が存在しないことを証明する責任(挙証責任)を課していることから、中間責任であるといわれています。占有者は、損害発生の防止措置を講ずるにつき過失がなかったことが証明できれば、免責されますが、所有者に対しては、何らの免責事由も認めていないことから、完全な無過失責任ということになります。しかし、本条が工作物の設置・保存の瑕疵の存在を要件としていることから、完全な無過失責任ではなく、本条の瑕疵とは主観的な過失を客観的に定型化したものであり(加藤一郎「不法行為」二〇頁)、瑕疵が証明されれば、注意義務違反は推定されるのであるから、過失責任によるものと解すべきだという学説もあります。

 ところで、工作物の占有者・所有者の責任を一般の不法行為よりも加重している根拠として、危険を防止させるという政策的配慮や工作物の利用による報償責任に求める説がありますが、他人に損害を生ぜしめるかもしれない危険性をもった瑕疵ある工作物を支配している以上は、その危険について責任ありとする危険責任に根拠を求める学説が多数です。

三、工作物責任の拡張

 本条は、土地の工作物と竹木にその対象を限定しています。土地の工作物にはつぎのものがある。建物およびその附属物・従物、堀・石段、工事用のゴンドラ、ベルトコンベア、リフト、トロッコ、トンネル、鉄道施設、地下道、鉄塔、高圧線、プール、スキー場、自動販売機、プロパンガス容器、石油パイブ等。これらには動産も含まれているが、何らかの形で不動産と結びついていることが必要である。

 ところで、工作物責任の根拠を危険責任に求めると考えますと、その対象を土地の工作物と竹木に限定してしまうことは、狭きに失することになります。現代社会における近代的企業においては、その企業施設自体が他人に損害を生ぜしめる危険性を内包しています。そこで、このような危険な施設による損害の発生についても、危険責任を根拠とする工作物責任の規定を適用することが強く主張されています。

四、土地工作物の瑕疵

1.意義と判断基準

 土地工作物の設置または保存に瑕疵があることが要件となる(民717T)。竹木の栽植または支持の瑕疵も同様である(民717U)。

 瑕疵の有無の判断は、土地工作物・営造物の構造、用法、場所的環境および利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的になすべきものである。一般に瑕疵は、物の性質が本来あるべき性質を備えていない状態である。しかし、工作物責任では、瑕疵の意義を積極的に工作物が安全性を欠いていることもしくはその性状が他人に危害を与える可能性をもつこと、とするのが通説・判例である。工作物・営造物の安全性基準は、工作物・営造物の設置管理者の考える本来の用法のみではなく(具体的基準)、一般的に考えられる目的物の通常の用法に照らして判断されるべきもの(抽象的基準)であると考える(いかなる使用に対しても安全性が要求されることはないのは当然である)。

2.瑕疵=義務違反説

 通説・判例の意味では、瑕疵は義務違反とは関係しない。これに対して、工作物の瑕疵を安全確保ないし損害防止の義務違反と解する義務違反説も有力である。たしかに、不法行為の有責性が主観的要素から客観的要素に変換されてくると、安全性を欠く工作物の状態が注意義務違反という視点に接近することは否定できない。しかしながら、物のそうした状態(瑕疵)の有無と、工作物占有者ないし所有者にその状態作出をしない行為義務の違反があるかという判断とは区別するべきであろう。

 国道への落石による死亡事故につき、国賠法2条の瑕疵は「営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、これに基づく国および公共団体の賠償責任については、その過失の存在を必要としない」(最判昭45・8・20民集24・9・1268)。また、同条の瑕疵は、「営造物が通常有すべき安全性を欠き、他人に危害を及ぼす危険性のある状態」とする判決もある(最大判昭56・12・16民集35・10・1369−大阪国際空港事件、最判昭59・1・26民集38・2・53−大東水害事件)。営造物を土地の工作物と置き換えれば本条の瑕疵にそのまま妥当する。

 なお、河川のように、本来自然発生的な公共用物で、公用開始のための特別の行為を要しないものは、もともと洪水等の自然的原因による災害をもたらす危険性を内包しているので、瑕疵の有無の判断上他の工作物に比べて厳格になるとする判決がある(大東水害事件の最判昭59・1・26)。

 営造物の瑕疵と被害者の予想外使用との関係について、最判平5・3・30民集47・4・3226 は、幼児が、学校内のテニス審判台に上りその背当て部分の鉄パイプを握って後方から降りようとしたため、審判台が倒れて死亡したという事案で、営造物の設置管理者は、審判台が本来の用法に従って安全であるべきことについて責任を負うのが原則であり、設置管理者が通常予測できない異常な方法で使用しないという注意義務は、利用者側(本件では保護者)にあるとしている(原審破棄)。これは、営造物の安全性基準で前述の具体的基準によったもので、営造物の使用におけるリスクの分配にあたり利用者側に厳しい判断である。

3.瑕疵概念と安全性 

 瑕疵概念は、民法上、瑕疵担保その他で用いられ、そこでは安全性欠如の意味ではなく、上述のように物の性質があるべき性質を備えていない状態を指している。これに対して、工作物の瑕疵ではその意味を限定して、安全性の欠如とするのが通説・判例であるが、そのように限定する必要があるのかは、一個の問題である。とくにその必要があれば格別、同様な状況関係では同一の用語は同一の意味に解すべきである。

 工作物の瑕疵が安全性に直接かかわることはその通りであるが、瑕疵概念が安全性欠如の状態を含む広い意味のものであることを確認しておけばよいのであり、あとは、因果関係の問題として、工作物の瑕疵により損害が発生したことが明らかになればよい。

五、工作物の瑕疵と損害発生との因果関係

 工作物責任が成立するには、土地工作物の瑕疵の存在だけではなく、さらに、工作物の瑕疵により損害が発生することが要件である(因果関係)。工作物から損害が発生しても、その瑕疵による損害であることが必要なのである。

1.不可抗力の事故

 伊勢湾台風による堤防決壊事故で、堤防の設置または管理に瑕疵がなく、堤防が築造当時予見されえなかった高潮等でこわれた場合、これは不可抗力による災害であるとした判決がある(名古屋地判昭37・10・12下民集13・10・2059)。これは、土地工作物による損害発生はあったが、土地工作物の瑕疵でなく天災による損害発生事例であり、このような場合には本条の適用はないことになる。

2.工作物の瑕疵によらない損害発生

 つぎに、工作物に瑕疵があっても、その瑕疵と無関係に損害が発生した場合、瑕疵による損害発生ではないので、本条の工作物責任を認めるための因果関係がなく、したがって本条の適用はない。

3.工作物の瑕疵と他の原因との競合例

 工作物の瑕疵により損害が発生したが、@自然力やA第三者の行為が競合した場合、全額につき本条の責任が生ずるか否かが問題となる。

@瑕疵と自然力との競合

 集中豪雨による土石流により国道上のバス2台が飛騨川に押し流された事件で、現在の科学技術の水準では防護施設によって土石流を防止することは困難であるが、交通止めなどの事前規制で事故発生を防止しえたとして道路管理の瑕疵を認めた判決がある(名古屋高判昭49・11・20高民集27・6・395)。このような場合、自然力の損害発生への寄与度と瑕疵によるそれとを割合的に算定して損害賠償額を減縮しうるかが問題となる。本判決はこれを認めており、学説にも肯定する見解があるが、通常はこれを否定すべきであると考えられる。

A瑕疵と第三者の行為との競合

 第三者の運転する車によって道路上の工事標識板、バリケードおよび赤色灯標柱が倒されたあと工事現場を通りかかった車が、工事現場に突入するのを避けようとして道路脇に転落した事件で、最判昭50・6・26民集29・6・851は、道路の安全性に欠けるところはあったが、道路管理者が遅滞なく道路を安全良好な状態に復せしめることが不可能であり道路管理に瑕疵がなかったとしている。この事例は、@瑕疵がないとみるべきなのか、A義務違反説のように、道路管理者に損害回避可能性がないために義務違反はないとみるべきなのか、B瑕疵があったが、第三者の創出した瑕疵でしかも時間的に除去しえない場合には不可抗力として道路管理者に責任は負わないとみるべきか、見解の分かれるところである。

六、工作物責任と関連制度

1.工作物責任と失火責任

 失火責任法は、木造家屋が多いわが国では、失火による延焼のために予想外の大量被害が発生しやすいので、失火者に重過失がある場合に限り不法行為責任を負わせたものである(失火ノ責任ニ関スル法律・明32法40)。

 火災が工作物の瑕疵から発生した場合、失火責任と工作物責任との関係が問題になる。それに関して、失火責任法を工作物責任の特別法として、@工作物の設置・保存の瑕疵が重過失によるときに限り賠償責任を認める立場(大判昭7・4・11民集11・609)、Aこのような瑕疵からの直接損害は工作物責任、延焼部分に限り失火責任法が適用されるとする立場、Bいずれも選択できるとする立場に分かれる。結果的には、第2の立場が妥当なように思われるが、木造建物でない火災における延焼も画一的に解すべきかはなお検討の余地があろう。今後の検討課題としたい。

2.工作物の瑕疵と企業の不法行為責任

 企業の工作物の設置・保存に瑕疵がある場合、企業活動そのものが危険を伴うので、工作物責任とともに、企業の不法行為責任が問題となりうる。この問題は、企業活動自体は適法であり許された営業行為であっても、その過程で、企業の工作物の設置・保存の瑕疵のために他人に損害を加えた場合、企業の行為全体を法的に評価する視点として工作物責任が登場するのであり、民法717条と民法709条の競合を認めることができる。

七、効 果

1.賠償義務者

 工作物責任には、工作物の占有者と所有者が賠償責任を負担するが、第一次的には占有者、占有者が損害の発生を防止する上で必要な注意を払ったことを証明すれば、所有者が第二次的に責任を負う(民717T)。ここでいう占有者には間接占有者も含まれる。

 工作物責任は危険責任を基底にするものであることから、占有者の損害防止義務は、危険な物の管理者という地位に対応した高度なものであると解される。また、所有者の補完的責任は無過失責任であるが、天災により工作物に瑕疵が生じその瑕疵のために損害を被った場合のように、不可抗力による損害にまでは責任を負わないとされている。

2.求 償 関 係

 工作物の瑕疵による損害の賠償をした占有者または所有者は、工作物責任の原因について他に責任を負うべき者に対する求償権をもつ(民717V)。

 

 

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工事中につきご迷惑をおかけしてます。

 

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Revised: 2002/12/01 .